トランスファーRNAのメチル化担うたんぱく質にメス―ヒト遺伝形質の発現の理解など促進へ:愛媛大学/高エネルギー加速器研究機構
(2019年10月31日発表)
愛媛大学と高エネルギー加速器研究機構(KEK)の共同研究グループは10月31日、DNAからたんぱく質を作り出す過程ですべての生物に共通にみられる「トランスファーRNA(tRNA)のアンチコドン一文字目のリボースのメチル化」という現象を担っているTrm7-Trm734たんぱく質複合体の仕組みや役割を解明したと発表した。
ヒトにおいて「tRNAのアンチコドン一文字目のリボースのメチル化」の欠損は、X染色体リンク精神発達遅滞という遺伝形質を引き起こすことが知られており、今回の研究成果はヒト遺伝形質の発現の理解や遺伝子診断、遺伝子治療法の開発に役立つという。
DNAの遺伝情報をメッセンジャーRNA(mRNA)が写し取った3文字一組の遺伝暗号をコドンといい、アンチコドンはたんぱく質を合成するにあたってtRNAにより読み取られた遺伝暗号解読部位を指す。
このアンチコドン一文字目のリボース(RNAの構成糖)のメチル化は、すべての生物に共通にみられる現象で、tRNAとmRNAの結合を強化し、たんぱく質合成の途中でエラーが起こる頻度を低下させる、などの役割を持つ。このメチル化はTrm7-Trm734たんぱく質複合体と呼ばれるたんぱく質が担っているが、この複合体が特定のtRNAのみをメチル化する理由などは不明だった。
研究グループは今回、たんぱく質の結晶構造を解析するのに有用なX線結晶構造解析や、非結晶状態の構造の解析に有用なX線小角散乱の測定などを行い、Trm7-Trm734たんぱく質複合体の構造を解析することに成功、その構造情報をもとに、複合体の働きを分子・原子レベルで調べた。
その結果、Trm7-Trm734は3つある因子のうちの最低2つの因子を持つtRNAを優先的にメチル化すること、メチル化にはtRNAのD-armと呼ばれる構造が必要なこと、Trm734はtRNAを捉まえ、触媒サブユニットのTrm7とtRNAを接触させる役割があること、などが明らかになった。
これらの新知見により、ヒト遺伝形質の発現の理解促進が期待されるとしている。