簡便な印刷法で有機半導体製の4インチ級ウエハーを作製―1,600個のトランジスタの正常な稼働を確認:東京大学/産業技術総合研究所ほか
(2019年11月4日発表)
東京大学と(国)産業技術総合研究所、パイクリスタル(株)の共同研究グループは11月4日、簡便な印刷法を用いて厚さ10nmという極薄有機半導体単結晶膜の4インチ級ウエハーを作ることに成功、このウエハー上に作製した1,600個のトランジスタは欠陥なく作動し、平均の電荷移動度は実用化の指標値に達していることを確認したと発表した。
印刷の大面積化による高速有機トランジスタ集積回路の低コスト・大量生産に道を開く成果という。
有機半導体は、軽くフレキシブルで、印刷法で作れるなどの特徴があることから、シリコン半導体に代わる次世代の電子材料として期待され、回路やデバイスの実用化に向けた研究開発が精力的に進められている。
課題の一つは、高い性能を引き出すための均一性や再現性に優れたプロセス技術の確立で、その解決案として印刷可能な半導体を用いた単結晶膜の活用が注目されている。
研究グループは先に、独自の高性能有機半導体材料を用いた印刷技術により、分子2層分程度の厚みの極薄有機半導体単結晶膜の作成に成功し、移動度15cm2/Vs以上を示す高性能p型有機半導体トランジスタの作製が可能なことを報告した。
その際、単結晶膜の印刷に用いたのが、独自開発の「連続エッジキャスト」法で、これを用いると有機半導体インクを吐出するノズルのスキャン個所にだけ単結晶薄膜が成長する。
研究グループは今回、ノズル幅を従来の4倍以上となる9cmに拡大し、周辺装置や印刷条件を改良することで、ほぼ3分子層から成る均一な有機半導体結晶膜印刷の大面積化を達成した。これは4インチ級ウエハーの大きさで、市販のシリコンウエハーに匹敵する。
用いた有機半導体は化学的に安定であるため、単結晶薄膜上でフォトリソグラフィーによる電極パターニングが可能。このウエハーに1,600個のトランジスタを作製し、有機トランジスタにおける最高クラスの性能を達成した。
研究グループでは今後、より高性能の有機半導体材料や印刷装置の開発を進め、より大面積印刷技術の確立を目指すとしている。パイクリスタル社は今回の印刷技術を活用した高性能集積回路の開発を進めており、近く事業化の見込みという。