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飛来する黄砂で妊婦の胎盤剥離が増加―産前に子宮から剥がれる早期剥離が1.4倍に:東邦大学/九州大学/国立環境研究所

(2019年11月8日発表)

 東邦大学、九州大学、(国)国立環境研究所は118日、飛来する黄砂(こうさ)に妊婦がさらされると胎盤の剥離が増加するという分析結果が得られたと発表した。妊婦の胎盤が産前に子宮から剥がれる「常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)」に黄砂がどう影響しているかを約3,000人の妊婦を対象にして調べた。

 胎盤は、妊娠中のお母さんが胎児に酸素や栄養を送っている重要な臓器で、それが分娩の前に子宮壁から剥がれてしまうのが常位胎盤早期剥離。この早期剥離は、全妊婦の1%ほどに発生しているとされ、発生すると胎児への酸素・栄養の供給が絶たれてしまう。

 研究グループは、大気環境が人の健康に与える影響、特に妊婦とその子供の健康への影響について研究を進めており、今回その一環として対策が社会的に重要になっている黄砂に着目した。

 黄砂は、アジア大陸から偏西風で日本に飛んでくるケイ素などを主成分とする微小な粒子状物質だが、微生物や大気汚染物質を巻き込んで到達するため人への健康影響が心配され、黄砂が飛んできた後には呼吸器や循環器の急性疾患が増加するという研究報告などが出ている。

 しかし、飛来する黄砂の妊婦や胎児への影響についてはよく分かっていない。

 そこで研究グループは、それを明らかにするため全国各地に黄砂を観測するのに設置されているライダーという装置の測定データを使って分析を行った。

 ライダーは、レーザー光線を上空に打ち出しチリで散乱した光を高感度のセンサーで計測し黄砂の空中の濃度分布を観測するというもの。

 研究では、同装置が設置されている北は宮城県から南は長崎県まで9都府県を研究対象地域にして黄砂の濃度が一定の基準を超える日を黄砂の飛来日と指定。9都府県の113の病院で2009年から2014年にかけて得られた約3,000人の妊婦の出産データを対象に分析を行った。

 その結果、出産の12日前に黄砂が飛来すると胎盤の早期剥離が飛来のない日の1.4倍になっていることが分かった。

 黄砂飛来時には二酸化窒素など他の大気汚染物質の濃度が高くなる傾向があるが、研究グループは「それらの要因の影響を取り除いた分析結果でも黄砂と早期剥離の関連性が認められた」としており、早期剥離の発症メカニズム解明の糸口になることが期待される。