牛の人工授精の受胎率上げる精液の前処理技術を開発―簡単な装置使って元気な精子集める:産業技術総合研究所ほか
(2019年11月14日発表)
(国)産業技術総合研究所と佐賀県畜産試験場などの研究グループは11月14日、共同で牛の人工授精の受胎率を上げる精液の前処理技術を開発、実証実験で高い受胎率を記録したと発表した。家畜用の牛の人工授精では受胎率アップが課題になっているだけに実用化が期待される。
開発には、森永酪農販売(株)、(独)家畜改良センター、佐賀大学が参加した。
家畜用の牛の繁殖の多くは人工授精によって行われている。ストロー状の細長い管に精液を封入し凍結保存して適切な時期に雌牛の子宮に注入するというのが人工授精だが、受胎率が近年低下傾向にあり、如何にして受胎率を上げるかが課題になっている。
人間の不妊治療では、運動性を失ったりした精子を取り除いて元気な精子を集める処理が行なわれるが、牛の人工授精ではそうした精液の前処理が一般に行なわれず死んだ状態の精子などが混在した状態で使われている。
しかし、畜産現場で手間のかかる前処理を行って元気な運動性精子だけを選り分けることを行うのは難しく、簡便な精液の前処理技術が求められている。
研究グループはそれに応えようと昨年の3月に牛の精液の新しい前処理法をプレス発表しているが、今回簡易な装置に仕上げることに成功、選別した元気な運動性精子だけをストロー容器に封入し凍結保存できるようにした。
装置は、上の方が下より口径が大きいコップのような形をしている。その中に種雄牛から採取した精液を投入、下部25℃、上部30℃になるよう温度勾配をつけた状態で液面付近に設けた撹拌子を回して精液全体を回転させる。
すると、元気な運動性精子は、上に向け回転する渦をさかのぼっていく一方、低運動性精子などは下部に溜まる現象が起こって両方を分離できる、というのがその仕組み。およそ30分の操作で元気な運動性精子を取り出せる。
実証実験では、ホルスタインと黒毛和牛の精液を前処理し上半分の精液を取り出して現用のストロー容器に封入、凍結保存して人工授精を行っているが、92%という高い受胎率が得られることを確認したとしている。
比較のために同種の牛に実施した通常の人工授精の受胎率は、54%だったという。