オレキシン阻害薬はレム睡眠、GABA作動薬は浅睡眠増加―タイプの異なる不眠症治療薬の比較テスト結果を公表:筑波大学
(2019年11月12日発表)
筑波大学の睡眠研究グループは2019年11月12日、不眠症治療薬のうち2014年に臨床応用が開始されたオレキシン阻害薬と、従来から用いられてきたGABA作動薬の身体・認知機能への影響などについて、30人の若年成人男性を対象に調査した結果を発表した。
服用後に強制的に覚醒させた時の身体・認知機能の低下は、GABA作動薬では強く、オレキシン阻害薬は治療薬を服用しない場合とほぼ等しかった。また、オレキシン阻害薬はレム睡眠を増やし、GABA作動薬は浅睡眠(せんすいみん)を増やす、などが明らかになったという。
オレキシンは、覚醒状態を維持する働きを持つ神経ペプチドで、オレキシン阻害薬はオレキシンの受容体と結合してその働きを阻害し、覚醒系を鎮(しず)めることで睡眠を促す新しいタイプの睡眠治療薬。
GABA作動薬は、ガンマアミノ酪酸(GABA)という神経伝達物質の働きを促し、脳の興奮を抑えることによって眠りへと導く睡眠薬。脳にはGABA神経が約200億個もあるとされ、作用は広範に及び、睡眠導入以外にふらつきやめまいなどを引き起こしたりもする。
研究グループは作用の違う2薬の効果・影響を明らかにするため、両薬あるいは偽薬を就寝15分前に被験者に投与して就寝させ、服用90分後に強制的に覚醒させ、身体機能および認知機能をテストした。身体機能では重心動揺や敏捷性(びんしょうせい)と動的バランスなどを測った。
その結果、強制覚醒後テストでは偽薬服用でも身体機能、認知機能の低下は認められるが、GABA作動薬ではその低下がさらに大きく、オレキシン阻害薬では偽薬とほぼ同等だった。平衡機能の指標となる重心動揺テストではオレキシン阻害薬の方がGABA作動薬よりも動揺が少なかった。睡眠途中に起きてトイレに行く高齢者の転倒や骨折は不眠症治療薬の副作用の一つとの報告があるので、重心動揺テストの好成績は望ましいという。
強制覚醒後25分間の各種テストの後、再び就寝させたところ、睡眠までに要する時間の平均は偽薬服用の場合24.3分だったのに対し、GABA作動薬では2.1分、オレキシン阻害薬では2.6分だった。
2薬の睡眠の質に及ぼす影響は異なっており、GABA作動薬は浅睡眠を増やし、オレキシン阻害薬はレム睡眠を増やした。オレキシン阻害薬を服用した被験者の多くに睡眠開始時レム睡眠期という睡眠が観察された。これは再就床後にレム睡眠が顕著なことを示している。
今後は不眠症に悩む人や高齢者もテスト対象に加えたり、睡眠時間全体でのエネルギー代謝の解析を進めるなどし、作用や影響に関する理解を深めたいとしている。