記憶や学習などの脳機能―金属ナノワイヤーネットで再現:物質・材料研究機構
(2019年11月11日発表)
(国)物質・材料研究機構を中心とする国際共同研究チームは11月11日、太さ1nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)程度の金属線を集積したナノワイヤーネットワークに記憶や学習、忘却といった人間の脳とよく似た電気的特性が生じることを発見したと発表した。「神秘の臓器」といわれる脳の機能解明や、従来のコンピューターとは異なる動作原理を持つ脳型情報処理技術の実現につながると期待している。
人間の脳は千数百億個の神経細胞からなり、各細胞は互いに1万本ものシナプスで結ばれて巨大なネットワークを構成する。シナプスによる神経細胞同士の結合は外部からの刺激で強化され、記憶や学習、連想や忘却といった脳の機能として現れる。
研究チームは、こうした脳の情報処理を技術的に実現するため、絶縁膜で被覆した太さ1nm程度の銀の導線を複雑に絡み合わせたナノワイヤーネットワークを作製、その電気的性質を解析した。
ナノワイヤーネットワークに電圧をかけ、どのような現象が起きるかを観察したところ、ワイヤー同士の接点での電流の流れ方が変化した。一定以上の電圧では、銀の原子がnm単位の薄い絶縁膜内に移動してフィラメント状の導電体となり絶縁膜の電気抵抗を下げる。一方、電圧が下がると絶縁膜内にできたフィラメントが消滅、接点での電流は再び流れにくくなった。あたかも試行錯誤しながらより電流が流れやすい経路を探し、同じ刺激が繰り返されるとその経路が強化された形になった。
ネットワーク内にある二点間の経路の連携が強化されるだけではなく、さまざまな経路が連携を保ちながら低抵抗化と高抵抗化を繰り返す現象も観察できた。形成された通電経路は完全には安定せず、別の経路に切り替わる「揺らぎ続ける現象」や電圧ゼロにしても通電経路がすぐには消滅しない現象も観察できた。同様の現象は脳の活動を電気的にとらえる計測実験でも確認されている。
このため研究チームは「ナノワイヤーネットワークの通電経路の形成、維持、消滅は脳の『学習、記憶、忘却』に、また変化する揺らぎの特徴は『覚醒、鎮静』に似ている」と話している。今後はナノワイヤーネットワーク材料を活用して、新しい脳型メモリの開発などに取り組む。