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分子モーターの異常が統合失調症の原因に―遺伝子欠損マウスによる解析で統合失調症様の症状確認:東京大学/日本医療研究開発機構/筑波大学

(2019年11月20日発表)

 東京大学、日本医療研究開発機構(AMED)と筑波大学の研究グループは11月20日、統合失調症患者の遺伝子を調べたところ、細胞内で物質を輸送する働きをしている「キネシン分子モーターKIF3B」という名称のたんぱく質複合体に変異をもたらす遺伝子異常が見出されたと発表した。遺伝子欠損マウスを作って解析したところ、ヒトの統合失調症に類似した特有の症状が認められたことから、この分子モーターの異常が統合失調症の原因にかかわっていることが明らかになったという。

 統合失調症は、妄想や幻覚、引きこもりや無気力、記憶力・注意力の低下などをもたらす精神神経疾患。原因は解明されておらず、神経伝達物質であるグルタミン酸の伝達部位の異常やドーパミンの過剰説など各種の説が唱えられている。

 研究グループは今回、統合失調症患者のゲノムを調査し、統合失調症患者のKIF3Bモーターをコード(符号化)しているKif3b遺伝子に一部変異があることを発見した。物質輸送を担っているKIF3Bモーターと神経・精神疾患との関わりについはこれまでほとんど報告例はなく、統合失調症との関連性は初めての発見。

 これを受けて研究グループは、Kif3b遺伝子が欠損した遺伝子操作マウスを作って行動解析した。その結果、このマウスには社会性の低下や驚愕反応の異常など、統合失調症様の症状が認められた。

 また、Kif3b遺伝子が欠損したマウスの海馬神経細胞には、神経細胞間の情報伝達部位であるシナプスの形態とその機能に大きな異常が見出された。具体的には、NMDA型グルタミン酸受容体の樹状突起スパイン表面における発現量が減少し、記憶・学習の基盤となるシナプス可塑性の変化が観察された。

 さらに、ヒトの統合失調症患者の遺伝子変異が本当にKIF3Bたんぱく質の機能低下をもたらしているのかを変異マウスの神経細胞を使って調べたところ、その確からしさが認められた。

 これら一連の成果は、キネシン分子モーターKIF3Bの機能的な欠損が統合失調症をもたらすという新規の分子メカニズムを提唱するもので、NMDA型グルタミン酸受容体が関与する統合失調症患者の治療法開発の基盤になるとしている。