温暖化で高山植物の逃げ場がなくなる恐れがある―全国各地の気候変動による影響を推計:長野県環境保全研究所/森林総合研究所ほか
(2019年11月27日発表)
長野県環境保全研究所と(国)森林総合研究所などは、温暖化が今のペースで進んだ場合に、以前と同じ気温、降水の気候条件が、元の場所からどのくらい離れた場所に見つかるかを「気候変動の速度(VoCC)」という新たな指標を使い推計し、11月27日に発表した。島の多い沖縄県や長崎県などは同じ気象条件の場所が遠くなると予想される。農業の品種・作物の転換対策や圃(ほ)場の移設対策を立てる際に参考になるという。
温暖化で徐々に生息環境が暑くなると、野生の動植物は以前と同じ環境を求めて移動する。そこで現在と21世紀末の気温とを比較して、同じ気候条件がどのくらい離れた場所に移るかを調べた。
地形によって高山の高いところに登る「垂直移動」と、平野なら北上する「水平移動」がある。元の場所が山の頂上や島の場合だと、より寒冷な別の山や島まで移動するため移動距離は長くなる。適切な移動先が見つからないと生物が絶滅する危険性が高まることを踏まえて推定した。
気候変動速度とは、気候が空間的に変化した際に、その距離を変化にかかった時間で割った速度をさす。例えば、年平均気温15℃の場所が、100年で100Km北上したなら「1Km/年」で表す。
調査は約1Km四方ごとの現在の年平均気温(1981〜2010年)と将来予測(2076年〜2100年)とを比べ、気候変動速度を日本全国で推計した。
その結果、温暖化が現在のペースで進むと、気候変動の速度は全国平均で249m/年になった。こんなに早い速度では多くの樹木の移動は不可能になる。
北海道、長野県、富山県、岐阜県、静岡県、山梨県の高山地帯では移動先が見つからない場合があった。都道府県ごとの集計では、島や半島の多い沖縄県や長崎県、平野の多い千葉県で気候変動の速度が特に速くなった。これとは逆に、気候変動の速度が遅い場所は気候条件がより安定的なことから、生物が避難してくる可能性がある。
この研究は「単純な仮定に基づいた事例に過ぎない」ため、結果の解釈には注意が必要だが、分かり易い指標のために気候変動対策として使いやすいとしている。自分の住む町が将来どのような地域と似た気候条件となるかのヒントになり、農業では品種や作物転換、圃場の移動などを検討する時の判断の参考になるとみている。