ニホンミツバチは外来ダニをうまく払い落とせない―まつ毛ブラシなど特殊な小道具の開発で、行動学的解明に成功:国立環境研究所
(2019年11月28日発表)
(国)国立環境研究所 生物・生態系環境研究センターの坂本佳子研究員らは11月28日、ニホンミツバチに甚大な被害をもたらしている外来のアカリンダニが、なぜニホンミツバチだけを重症化させているかを行動学的に解明したと発表した。独自に開発した小道具がミクロの生態系研究に役立った。
日本の各地で数年前から、飛べなくなったミツバチが巣の周りを徘徊するという異常現象が報告されている。この原因の一つが外来のアカリンダニの寄生だった。
ダニは体長0.1mmでミツバチの胸部気管内で繁殖する。ミツバチは気管が詰まると酸素不足で飛翔や温度調整ができなくなる。こうして巣内のミツバチ全体に蔓延し、コロニーが死滅するといわれる。
日本には在来のニホンミツバチと、養蜂用に海外から輸入したセイヨウミツバチがいるが、ダニの被害を受けているのはニホンミツバチだけで、このことが謎とされていた。
坂本研究員は、ミツバチがダニに気づき体を震わせて払い落とす「グルーミング」行動ができるかどうかがカギではないかと仮説を立てた。そこで両種の背中にアカリンダニを付け、ミツバチが払い落とそうとする行動を観察し、ダニを付着させなかった場合との比較をした。
ダニを付着させると両種共にグルーミングを始めたが、セイヨウミツバチが69%だったのに対してニホンミツバチは45%と低かった。ダニを付着させなかった場合のグルーミングでは、両種共に20%だった。またニホンミツバチの方がダニ除去能力が低く、セイヨウミツバチの約半数しか除去できなかった。
この実験では、0.1mmの微小なダニを操作するための小道具として、爪楊枝の先に人間のまつ毛を付着させた特殊な「まつ毛ブラシ」を作った。また動き回るミツバチたちを落ち着かせるために、ハチが暖かい場所に集まる習性を利用して、脚元を温める床暖房も考案したことが実験の成功につながった。
アカリンダニは、欧州や北米、南米などのセイヨウミツバチで昔から分布が確認されているが、日本では2010年に見つかった。セイヨウミツバチの輸入の際に持ち込まれた外来生物とみられる。
長年の間にダニを効果的に除去する行動を獲得しているセイヨウミツバチに対して、ニホンミツバチは有効な対抗手段を持っていなかったのが深刻な被害の原因とみている。
ニホンミツバチは国内でたくさんの植物の受粉を担っているだけに、植物の多様性や農業生産にも影響が出ると心配されている。