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ペタヘルツエレクトロニクスの幕開け:筑波大学

(2016年8月29日発表)

 筑波大学は8月29日、計算科学研究センターの矢花一浩教授と佐藤駿丞学振特別研究員がスイスのチューリッヒ工科大学超高速レーザー物理グループ、及び東京大学大学院工学系研究科附属光量子科学研究センターの篠原康研究員らとの共同研究で、ペタヘルツ(1秒間に10の15乗回)の振動数を持つパルス光により物質中の電子がどのように運動するかを明らかにした、と発表した。ペタヘルツエレクトロニクスの第一歩と言える。

 現代のエレクトロニクスは光や電子の運動を超高速操作することが基盤となっており、今日の電子回路は既にテラヘルツ(1秒間に10の12乗回)に至る振動数で動作している。次世代エレクトロニクスでは更にその1,000倍、1秒間に10の15乗回、つまりペタヘルツで動作すると言われてきた。早くも今回、そのペタヘルツエレクトロニクスの幕が開いたようだ。

 実験は強い2つの数フェムト秒(10の15乗分の1)の赤外線レーザーパルスをダイヤモンド薄膜に同時に照射して行い、成果は理化学研究所のスーパーコンピュータ「京」を用いた大規模な計算機シミュレーションで確認された。このシミュレーションには矢花教授らが長年にわたって開発した計算コードが用いられた。同コードはナノメートル(1nmは10億分の1m)以下の電子の運動とマイクロメートル(1μmは100万分の1m)程度の波長を持つ光電磁場の運動を同時に記述することが出来る世界で唯一の計算コードと言う。

 一方、チューリッヒ工科大学のグループは非常に短いパルス光を用いた実験技術の開発を進めており、既に1フェムト秒から1アト秒(10の18乗分の1秒)の紫外線パルス発生に成功している。今回の成果はペタヘルツの振動数を持つパルス光で電子がどの様に応答するかの直接測定が可能になったことを示している。