鉄酸化細菌の環境適応の仕組み明らかに―ナノ繊維の分泌により細胞フィラメントの伸長を制御:筑波大学ほか
(2019年12月9日発表)
筑波大学と東京慈恵会医科大学の共同研究グループは12月9日、水処理施設で金属除去などに利用されている鉄酸化細菌Leptothrix属の環境適応の仕組みをとらえたと発表した。ナノ繊維の分泌により細胞フィラメントの伸長を制御していることが分かったという。
鉄分の豊富な天然の湧き水や沼沢地には、鉄細菌の仲間がバイオマットと呼ばれる集団を形成して生息している。
鉄酸化細菌のLeptothrix属細菌は、菌体表面から無数のナノ繊維を分泌し、これら繊維が絡まって細かい糸状の細胞フィラメントを覆うチューブ原基を形成、これが酸化鉄粒子に覆われたマイクロチューブとなり、このチューブから成るバイオマットを構築して生息している。
Leptothrix属細菌のこうした生態は知られているが、ナノ繊維の分泌やチューブ原基を形成する生物学的意義は明らかになっておらず、細胞フィラメント形成過程におけるナノ繊維の分泌のダイナミクスの観察などが求められていた。
研究グループは、微細加工技術を駆使してマイクロ流路デバイスを設計・製作し、二次元空間における鉄酸化細菌の増殖のリアルタイム観察を行った。
野生型株とナノ繊維非分泌株を観察、比較したところ、野生型株はデバイス表面に接着後に細胞フィラメント形成を開始するが、ナノ繊維非分泌型は表面接着ができず、ほとんど増殖しなかった。このことから、繊維を介した表面接着が細胞フィラメントの伸長のカギであることが分かった。また、ナノ繊維の分泌が細胞フィラメントの伸長方向決定にもかかわることが明らかになった。
これらのことから、Leptothrix属細菌は分泌ナノ繊維を介して細胞フィラメントの伸長を適切に制御することで環境に適応し、流れのある環境水中で優位にバイオマットを形成する戦略を持つと考えられるという。
Leptothrix属細菌のつくるチューブ原基は、鉄、マンガンをはじめとする様々な金属イオンを吸着するため、水処理施設で低コストな金属除去システムとして利用されている。また、鉄を吸着したチューブは、顔料、電極、触媒、農薬など多くの利用方法が研究されている。今回の成果はこれらの応用にフィードバック可能であり、水処理能力の向上やチューブの材料特性の改良に貢献することが期待されるとしている。