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原核生物の常識を覆す新バクテリアを発見―真核生物誕生の謎を解き明かす手がかりに:筑波大学

(2019年12月11日発表)

 筑波大学生命環境系の石田健一郎教授、白鳥峻志(現:(国)海洋研究開発機構研究員)、鈴木重勝(現:(国)国立環境研究所研究員)らの研究グループは、原核生物でありながら真核生物に特有の捕食機能を持つ奇妙なバクテリアを、太平洋ミクロネシアのパラオ共和国で発見したと、12月11日に発表した。原核生物の常識を覆す全く新しい特徴を持った生物で、原核生物から真核生物への進化を解明する貴重な発見とみている。

 原核生物は、真正細菌と古細菌からなり、細胞は小型で発達した細胞骨格を持たない。真核生物は、細胞の中にDNAを包む核を持つ生物の総称で、人間や動物、植物、菌類などの多細胞生物やゾウリムシなどの単細胞生物が含まれる。

 真核生物は原核生物と比べて大型で柔軟な細胞を持っている。中でもアメーバなどの単細胞生物はエサの取り込みに使い、人間の体の中では白血球が病原体を排除するときに使われる。

 研究グループは、パラオ共和国の海水を採取し、真核生物の単細胞と同じくらいの大きさでアメーバのように柔軟に変形しながら移動する奇妙な真正細菌を発見。パラオの神話に出てくる大食いの巨人に因んで「ウアブ(Uab)」と名付けた。

 ウアブは直径5μm(マイクロメートル、1µmは100万分の1m )と真核生物の細胞と同じくらいの大きさで、アメーバのように細胞を柔らかく変形させながら運動していた。顕微鏡で観察すると、ウアブは原核生物にもかかわらず真核生物のような食作用をし、柔軟な細胞で細菌や小型の真核生物を丸ごと飲み込んでいることが明らかになった。

 さらに電子顕微鏡で詳細に観察すると、ウアブは捕食した生物を細胞内部の膜で区切られた領域(食胞に相当)に取り込んで、その中で分解していた。またウアブの細胞内部には、真核生物にみられるような発達した繊維状の構造も見られた。

 ウアブの真核生物に似た特徴が何によってできたかを明らかにするためにゲノム解析をした。約960万塩基対からなる比較的大型のゲノムを持っており、中には6,600個の遺伝子が存在することが明らかになった。

 ところが予想に反して、真核生物の食作用に関係のある遺伝子や、真核生物から遺伝子が移動したと思われる遺伝子はほとんど見つからなかった。真核生物と関係のある遺伝子がみつからなかったことは、ウアブが真核生物のような特徴を独自に獲得したことを示唆している。

 チームはウアブがどのようにしてこれらの特徴を獲得したかを解明し、生命の進化史のナゾを解き明かしたいとしている。