再生医療低コスト化へ新手法―水と油の界面で細胞分化:物質・材料研究機構
(国)物質・材料研究機構は12月10日、水と油の境界面でさまざまな細胞になれる能力を持つ幹細胞から神経細胞を作ることに成功したと発表した。幹細胞をもとにして特定の細胞を作るのは再生医療に欠かせない技術だが、今回はこれまでのように高価な試薬を用いることなく作ることができた。再生医療に必要な特定の細胞を安価に提供する新たな手法になると期待している。
今回の研究で用いたのは、油の一種であるパーフルオロカーボンと細胞を培養するための培養液。両者を一緒にすると水溶液である培養液とパーフルオロカーボンは混じり合わないが、今回の研究ではその境界面を使って幹細胞を培養し神経細胞に変化させるという「分化誘導」の場にする技術の開発に成功した。
実験に用いたのはヒト間葉系幹細胞で、従来は神経細胞に分化させる際には細胞から分泌される低分子のたんぱく質「サイトカイン」などの高価な試薬「分化誘導因子」が必要だった。そこで物材研は、今回なぜこうした試薬なしに分化誘導が可能になったかについても詳しく解析した。
その結果、①養液中に含まれるたんぱく質と別途添加したたんぱく質「フィブロネクチン」が培養液とパーフルオロカーボンの液々界面に薄膜を作る、②この薄膜とヒト間葉系幹細胞との間に双方向で調節し合う何らかの“力学的対話”が成立していることが分かった。そのため、特別な分化誘導因子を用いなくても、「水」と「油」という流動的な界面による力学的な刺激によって幹細胞が特定の細胞に分化した、と物材研はみている。
今回の成果について、物材研は「今後、神経細胞だけでなく、さまざまな種類の細胞へと分化誘導できる技術を探し求めていくことで、材料を基軸とする再生医療技術としてのさらなる飛躍が期待される」と話している。