炭素繊維強化プラスチックの破壊初期の現象キャッチ―放射光X線顕微鏡を用いてナノレベルで観察:高エネルギー加速器研究機構
(2019年12月17日発表)
高エネルギー加速器研究機構(KEK)は12月17日、航空機の機体や翼の構造材料として用いられている炭素繊維強化プラスチック(CFRP)に亀裂が発生・進展する様子を、放射光X線顕微鏡を用いてナノレベルの分解能で観察することに成功したと発表した。
CFRP材料の破壊の初期現象を初めて詳細にとらえたもので、CFRP材料の高機能・高性能化への貢献が期待されるとしている。
CFRPは炭素繊維と樹脂を混ぜ合わせた複合材料で、軽量・高強度材として航空機や自動車などに広く用いられている。
CFRPは亀裂が致命的なサイズに進展しなければ安全に使用できる材料であり、現在、材料内部まで検査可能な超音波や放射線を用いて亀裂のモニタリングなどが行われている。ただ、これらの検査法は空間分解能が数mm程度に限られている。
透過性が高く、分解能も高いX線を用いたCT(コンピュータ・トモグラフィー)法による観察も行われているが、これまでその分解能は数㎛(マイクロメートル、1µmは100万分の1m )が限界で、亀裂初期の詳細な現象の把握は困難だった。
研究グループは今回、X線を集光・結像する光学素子を活用したX線顕微鏡を放射光装置にセットし、放射光装置により得られる強力で指向性の高いX線をCFRP試料に照射、X線CT法により試料の内部を非破壊で三次元観察できるようにした。この放射光X線顕微鏡の空間分解能は50nm (ナノメートル、1nmは10億分の1m)前後で、従来のX線CT法の分解能より20倍以上高い。
CFRPは密度差が小さい2つの材料で構成されているため、従来法では明瞭な像が得られないという課題があったが、研究グループは界面を強調して測定する手法などを導入し、明瞭な3次元像を取得できるようにした。また、試料に応力を印可しながらX線顕微鏡による高分解能観察を可能にした。
観察の結果、樹脂内での亀裂発生と、炭素繊維・樹脂界面での剥離とが競合して亀裂が発生することが明らかになった。単純に応力集中している場所から亀裂が発生するのではなく、これら2つの過程の起こりやすさが亀裂発生と進展に大きく関係していることが分かった。2つのモードが亀裂の起点となることは理論計算から予測されてはいたが、実際に観測したのはこれが初めて。また、炭素繊維、樹脂、両者の界面の強度のバランスが実際の亀裂の発生・進展を決めていることも示された。
ナノスケールで亀裂の挙動を観察できる今回の手法は、CFRPの高機能化のために必要な基礎的情報の提供に貢献するとしている。