温暖化に対応できず衰退する樹木が出る可能性も―山地に自生するサルナシ使った調査から判明:東京農工大学/総合地球環境学研究所/森林総合研究所
(2019年12月18日発表)
東京農工大学、総合地球環境学研究所、(国)森林総合研究所の共同研究グループは12月18日、日本各地の山地に自生するキウイフルーツの仲間「サルナシ」がクマなどの動物に食べられると種(たね)が気温の高い低標高地に偏って散布されることが調査で判明し、このように気温が高い低標高の場所に種子が運ばれる樹木は温暖化にうまく対応できずに衰退する可能性があることが分かった、と発表した。
地球温暖化による気温の上昇から樹木を守るためには、気温が低い高標高地や北方に種子を散布するようにして生育地を移動させる必要がある。
しかし、高低差が100mを超えるような長い距離の種子の移動についてはこれまでほとんど研究がなく、そのメカニズムはよく分かっていない。
今回の研究は、動物が秋から冬にかけ果実が熟すのを追うように山を下りるためその時期の種子は気温の高い低標高の場所に偏って散布される、という仮説があるのを実際にその通りか検証しようと行った。
調査は、北海道から九州までの山地に自生しているサルナシを対象にしてツキノワグマなどの哺乳類がサルナシの果実を食べて動き回った後、それをどこに排泄したか探して種子の散布状況を明らかにするという方法で行った。
サルナシの名は、「猿が梨と間違えて食べる」という言い伝えから付いたとする説も聞かれ、キウイフルーツを小さくしたような形の人間が食べても美味いと感じる果実が秋になると実り動物が好んで食べる。
調査では、東京都の奥多摩地方の標高550mから1,650mの山に調査ルートを設け、タヌキ、ツキノワグマ、ニホンザル、テン(大型のイタチの仲間)の4種類の哺乳類についてフンを採取し中に含まれているサルナシの種子を摘出、高さ方向の種子散布距離を求めた。
その結果、タヌキ以外は全て気温の高い低標高地に偏ってサルナシの種子を散布していたことが判明、高さ方向の種子散布距離が平均値でツキノワグマ-393.1m、ニホンザル-98.5m、テン-245.3mとマイナスを示し、山を下って暖かい場所のサルナシを食べて種子を散布していることが分かった。
また、行動圏が大きい哺乳類ほど気温の高い低標高地に種子散布していることを確認した。
日本の森林では、秋から冬にかけ果実を実らせ動物に種子散布してもらっている樹木が多い。研究グループは「サルナシと同様の種子散布が他の樹木でも起こっているとすれば、温暖化によって森林の種構成や生態系機能は大きく変化することが予想される」と警鐘を鳴らしている。