宇宙での免疫異常の仕組み解明―人工重力で予防も可能に:理化学研究所/筑波大学ほか
(2019年12月27日発表)
(国)理化学研究所、筑波大学などの研究グループは12月27日、宇宙の無重力環境下で長期滞在したときに起きる免疫機能低下の仕組みを解明したと発表した。国際宇宙ステーションで実施したマウスの実験で、無重力下では免疫器官「胸腺」の細胞増殖に関わる遺伝子が減少することを突き止めた。将来、月や火星の有人探査や民間宇宙旅行をする際に必要な健康管理や免疫異常の予防に役立つ。
理研、筑波大のほか宇宙航空研究開発機構、東京大学の研究者らが参加した研究グループが、国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」で約1カ月間にわたりマウスの飼育実験をして明らかにした。
実験では、一部のマウスを遠心力による人工重力装置で地上と同じ1Gの重力下に、他のマウスは無重力環境に置いたまま飼育し、地上に帰還させた後に胸腺を採取して詳しく調べた。その結果、無重力環境で飼育したマウスでは地上で飼育したマウスと比べて体重当たりの胸腺重量が明らかに減少していた。これに対し、人工重力装置による1Gの下で飼育したマウスでは胸腺重量の減少幅が無重力マウスに比べると明らかに少なかった。
さらに無重力下で胸腺重量の減少がどのような仕組みで起きるかを探るため、胸腺で働く遺伝子を網羅的に調べた。その結果、無重力下で飼育したマウスは地上で飼育したマウスに比べ多くの遺伝子の働きが影響を受け、特に細胞増殖に関わるたんぱく質を作る遺伝子が減少していた。一方、人工重力装置で1Gの下で飼育したマウスでは、影響を受けた遺伝子は無重力で飼育したマウスよりも少なかった。免疫反応を担うTリンパ球の産生で特に重要な胸腺上皮細胞に無重力下で起きる異常も、人工重力装置を使うと抑制されることも分かった。
研究グループは、「人工的に1Gを負荷することで、胸腺への影響が軽減されることが実証された」として、宇宙環境下での免疫系の異常を緩和するのに利用できる可能性があると期待している。