[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

トピックスつくばサイエンスニュース

野性のキノコの放射性セシウム濃度を推定―出荷できるか否かの判別に使える:森林総合研究所ほか

(2020年1月16日発表)

 (国)森林総合研究所、(国)国立環境研究所、東京大学の研究グループは116日、共同で野生のキノコの種ごとの放射性セシウム濃度を推定する方法を開発したと発表した。

 放射性セシウムは、放射線を出す放射性物質の一種。2011年の福島第一原発事故によって広域でその汚染が発生した。このため、国は食品衛生法で野性キノコをはじめ様々な食品の放射性セシウムを1㎏当たり100Bq(ベクレル、放射能の強さを表す単位)以下に指定している。

 しかし、今も東日本の広い地域でその基準値を超える野性キノコが見つかっていて、研究グループによると昨年9月の時点で10110の市町村で採れる野性キノコの出荷が制限されている。

 キノコの種類は4,000とも5,000ともいわれるほど多く、放射性セシウムを吸収し易い性質を持っていることが知られているが、吸収のし易さを示す指標であるそれぞれの野生キノコの放射性セシウム濃度特性は十分明らかになっていない。

 このため、野性キノコを市場に出荷するにあたってのチェックは、野性キノコを一括(くくり)にして行っている。

 一方、チェルノブイリ原発事故以降ヨーロッパを中心に行なわれてきた研究では、野性キノコの放射性セシウム濃度には種や属ごとに一定の傾向がある、とする報告が出ている。

 こうしたことから野性キノコの種ごとの放射性セシウムの濃度特性を明らかにすれば、今の出荷制限を見直せるとして研究グループは食品の放射能モニタリングデータに着目した。

 原発事故後、食品の安全性を確認するため、キノコを含む様々な食品について放射性セシウム濃度の検査が各自治体で行われるようになり、その検査結果は毎月厚生労働省のホームページ上に掲載されている。

 そこで研究グループは、原発事故があった2011年から2017年までに公開されたモニタリングデータの中から得た14265市町村の1073,189検体の野生キノコのデータを解析し、今回種ごとの放射性セシウム濃度特性を推定するモデルを開発した。

 その結果、多くの推定値が実測値に近い値を示し、一定の精度で野生キノコの種ごとの放射性セシウム濃度特性を推定できることが分かった。