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チェルノブイリ原発周辺の森林火災跡地では地表流が起こりやすい―放射性物質の拡散防止には土砂流出を抑える必要がある:福島大学/筑波大学ほか

(2020年1月16日発表)

 福島大学と筑波大学の研究グループは1月16日、チェルノブイリ原発付近の森林火災跡地を調査した結果、火災跡地での地表流による放射性物質の流出量が、火災のなかった森林と比べ約2.7倍も多いことが分かったと発表した。甚大な原発事故から34年。いまだに放射性物質の拡散が危惧されており、大気拡散に代わって、新たに地表流の流出の抑止が注目されている。

 チェルノブイリ原発事故は1986年に発生した。事故の後、原発から半径30Km圏内が規制区域に指定され、現在も立ち入りが制限されている。

 この区域の森林には原発事故で大気中に放出された放射性セシウムなどの放射性物質が蓄積しており、森林火災や火災後の土壌劣化による土砂流出で、再び拡散することが懸念されている。

 今回の大規模な森林火災は、原発から2Km離れた地域で発生し、約15haの森林が焼失した。研究グループは、現地のウクライナ水文気象学研究所とチェルノブイリ生態センターと共同で、森林火災跡地で地表流によってどれくらいの放射性物質が流出するかを、火災の影響のなかった森林地と比較調査した。

 地表流は土壌が降雨を吸収する能力を超えた時に、土壌に浸透しきれなかった雨水が地表を流れる現象をいう。調査の結果、焼け跡の地表流の流量は正常な森林より約2.7倍多く、移動する放射性物質は約30倍も多いことが分かった。

 放射性物質は地表流の水に溶けた状態ではなく、水中に浮遊する微細な土壌粒子などに吸着した状態で移動しやすくなっていた。

 調査した森林火災跡地は河川から離れた場所だったため、放射性物質が直接河川に流入することはなかった。今後、もしも河川周辺で森林火災が発生した場合には広域に影響が及ぶ心配があるため、研究グループは今後も観測を継続し、河川に流入した場合を想定して影響評価や対策を検討することにしている。