衝撃に強いカーボンナノチューブ複合プラスチック開発

衝撃に強いカーボンナノチューブ複合プラスチック開発―粘りがあり金属部材の代替使用に期待：産業技術総合研究所ほか

(2020年1月22日発表)

　（国）産業技術総合研究所とサンアロー（株）は1月22日、樹脂にカーボンナノチューブ（CNT）を効果的に分散・複合化する技術を開発し、スーパーエンジニアリングプラスチックのPEEK（ポリエーテルエーテルケトン）とCNTを複合した衝撃に強い高靭性のPEEK/CNT複合材料を共同開発したと発表した。

　今後、企業にサンプル提供するなどして金属代替化などの用途開拓を進め、機器・製品の軽量化や省エネ化につなげたいとしている。

　耐熱性が大きく、耐衝撃性、耐摩耗性、耐疲労性、耐薬品性に優れる樹脂をスーパーエンジニアリングプラスチックと呼ぶ。

　今回母材として用いたPEEKは、溶融成形できる熱可塑性スーパーエンジニアリングプラスチックとしては最高クラスのプラスチック。PEEKは電子・電気製品や輸送用機器などに広く用いられており、近年はさらに導電性や強度、熱伝導性などを付与するため、炭素繊維（CF）との複合化などが行われている。

　ところが、混合材としてCFをPEEKに添加すると衝撃に弱くなり、同様にPEEKにCNTを添加すると衝撃強度が母材より低下するという難点があり、この解決が課題になっていた。

　研究グループは今回、複合化の際の混錬成形手法を改良し、多層CNTのネットワークを適切に保持しながらPEEK中に分散させる技術を開発、衝撃に強いPEEK/CNT複合材料の作製に成功した。

　衝撃強度を数値化するシャルピー試験を行ったところ、従来法で複合化したPEEK/CNTは10本の試験片のうち6本が破壊され、それらの平均の衝撃強度はPEEK母材樹脂の半分以下だったが、新手法によるPEEK/CNTは測定限界の最大強度でも1本も壊れず、大きな靭性を示した。

　これは目に見えないほど細かいCNT繊維が適切なネットワークを形成し、衝撃による亀裂進展などが抑制されたためと考えられるという。

　CNTを添加するとPEEKの耐熱性と機械的強度が改善することは以前の研究で分かっていたが、今回150℃の下で引張試験したところ、引張強度はPEEKに比べ約2倍向上、室温下での向上率1.3倍と比べて特に高温領域での引張強度の大きな向上が認められた。

　また、静電気対策に重要な導電性についてもバラツキのない安定な測定結果が得られ、導電性と靭性を両立する実用的なPEEK複合材料を作製できることが明らかになったという。