室温でも高感度に測定できる低毒性の赤外線検出器を実現―多数の光アンテナをジグザグ配線で接続した独自の構造で:物質・材料研究機構
(2020年2月4日発表)
(国)物質・材料研究機構 機能性材料研究拠点の宮崎英樹グループリーダーと間野高明主幹研究員らは2月4日、光アンテナをジグザク配線で接続した独自の構造で、毒性の低い、高感度の赤外線検出器を実現したと発表した。長い間使われてきた水銀やカドミウムを含む冷却式の検出器に取って代わる高性能なもので、ガス分析や赤外線カメラへの応用が期待される。日本大学、東北大学との共同研究の成果となった。
大気中に漂うNOX やSOxなどの汚染ガスの検出には、これまで水銀やカドミウムなどを使った検出器が使われてきた。ところが欧州連合(EU)の決めた有害物質規制の「RoHS(ローズ)指令」や、日本が中心に制定した国際条約の「水俣(みなまた)条約」によって、水銀、鉛、カドミウムなど10種の有害物質を含む電子機器の製造や輸出入ができなくなった。
ただし赤外線検出器だけは有望な代替材料が見つからなかったため、例外的に使用が認められてきたものの、低毒性、高感度で使い勝手の良い代替品の探索が急がれていた。
研究チームは、電子の波を制御する「量子井戸」という微細な2種類の半導体結晶を交互に積み重ねて作る人工材料で実現した。材料の選択や厚さを変えることで検出感度を自在に設計できる。
ここではガリウムヒ素基盤の上に成長させた厚さ4nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)の量子井戸層を組み込んだ半導体を、ジグザグ配線で接続し、光の波を感知する「光アンテナ」を作った。これが赤外線を電流に変換し、室温でも赤外線を検出する。
量子井戸構造もジグザグ配線の光アンテナも緻密な設計によって人工的に作られているため、それぞれの寸法を調整するだけで感度を自在に変化できることから、様々なガス分子に最適化した高性能の検出器を作ることができる。
ここで使われたヒ素の毒性は、水銀やカドミウムと比べると低いため、RoSH規制の対象にはなっていない。