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ランタン水素の広い圧力域での超伝導は量子ゆらぎのお陰―低圧での室温超伝導の実現の可能性浮上:物質・材料研究機構ほか

(2020年2月5日発表)

 (国)物質・材料研究機構と東北大学、東京大学、理化学研究所などから成る国際研究チームは2月5日、-23℃で超伝導状態になることが発見された高圧下のランタン水素(LaH10)が、原子核の量子ゆらぎのお陰で広い圧力域で安定に存在することがコンピュータシミュレーションで分かったと発表した。水素を多く含む水素リッチ化合物の低圧下における室温超伝導実現の可能性が浮上してきたという。

 水素リッチ化合物のランタン水素LaH10が高圧下で高温超伝導を示すことは理論計算によって予測されていたが、2019年に米国の研究チームが、130~220GPa(130万~220万気圧)の高圧下、絶対温度250K(-23℃)で超伝導化することを実験的に確認、常電導物質が超伝導状態になる超伝導転移温度の高温化の記録を塗り替えた。

 転移温度の最高記録を更新したこのLaH10は立方晶の結晶構造をしているが、この構造を安定に保つには230GPa(230万気圧)以上の高圧が必要というのがこれまでの理論計算の予測であった。だが、なぜか理論予測より100GPaも低い圧力で立方晶構造が安定化していた。

 研究グループはこの謎の解明に挑戦、今回、低い圧力下での安定化が原子核の量子ゆらぎによってもたらされていることをコンピュータシミュレーションで解明した。

 原子核の量子ゆらぎは、いわゆる量子力学効果によって生じるゆらぎで、古典力学的には粒子である原子核が、量子力学では空間に広がった波としてとらえられ、量子ゆらぎによってゆらいでいる。

 原子の質量が大きいとゆらぎは小さいため、重い原子核は極低温では静止した粒子とみなせるが、水素原子核のように質量が軽いと量子ゆらぎが大きくなるため、量子力学的な扱いが必要になる。研究グループはこの量子ゆらぎに注目し、量子ゆらぎの効果を取り入れたシミュレーションを行った。

 その結果、高圧下ランタン水素において水素原子核の量子ゆらぎが極めて大きいこと、そして、立方晶LaH10は量子ゆらぎ効果によって広い圧力域で安定化している「量子固体」状態であることを突き止めた。

 つまり、水素原子核などの軽い粒子は、極低温でも量子力学効果によって空間的にゆらいでいるが、量子ゆらぎエネルギーは立方晶LaH10を最安定化することを明らかにした。

 現在、ランタン水素の超伝導転移温度を上回る水素リッチ化合物の発見が期待されている。今回のシミュレーション手法を用いると、そうした候補物質の組成・構造の理論予測が高精度で行える。今後適用対象を広げ、低圧下での室温超伝導物質の理論予測を目指したいとしている。