がんが免疫の攻撃から逃れる新たな仕組みを発見―がんの免疫療法に新たな期待:筑波大学
(2020年2月10日発表)
筑波大学医学医療系の渋谷和子准教授のグループは2月10日、がんが体の中の免疫機構を逃れて発症する新たな仕組みを発見したと発表した。これまで知られているがんの免疫逃避機構とは別のタイプで、この黒幕の働きを解明し除去できれば新しいがん治療法につながり、薬剤が効かなかった患者にも効果が生まれるものと期待している。
体の中では毎日のようにがん細胞が生まれているが、免疫細胞がこれを排除できれば発症しないですむ。
正常細胞ががん化すると、がん細胞の表面にたんぱく質の「CD155」が増加する。CD155には「膜型」と「可溶性」の2種類あることが知られていた。
これまでは膜型タイプが増加することによって、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)を活性化させる受容体(DNAM-1)を抑え込み、免疫力を弱めてがん化させることは知られていた。
もう一つの可溶性タイプは、がん患者では健常者より血清中に多く含まれることは分かっていたが、その機能が不明だった。
研究グループは、黒幕の可溶性タイプを作り出すメラノーマ(悪性黒色腫)腫瘍株と、作らないメラノーマ腫瘍株をそれぞれマウスに移したところ、可溶性タイプが有意に多く肺への転移が起こることを見つけた。
これは可溶性タイプが、NK細胞上の受容体DNAM-1に結合すると、DNAM-1の活性化が封じ込められてNK細胞ががんを排除できなくなったと考えられる。DNAM-1遺伝子を欠いたマウスでは肺への転移はおこらなかった。
黒幕の可溶性タイプのCD155を体内から除去できれば、体が本来持っている免疫システムが活性化し、がん細胞を排除すると考えられ、新しい治療法の開発が期待されている。