イネの窒素同化に関わっているカギ酵素の働き解明―根に光合成能力を付与できる可能性が浮上:筑波大学ほか
(2020年2月17日発表)
筑波大学、(国)理化学研究所、(国)国際農林水産業研究センターなどの共同研究グループは2月17日、無機の窒素化合物を体内に取り込んで有機の窒素化合物に変換する、植物のいわゆる「窒素同化」についてイネを対象に調べ、窒素同化を担っているグルタミン合成酵素(GS)群の働きの詳細を明らかにしたと発表した。
植物は窒素同化によって、窒素化合物のアンモニウムをアミノ酸の一つであるグルタミンへ変換している。この反応を担っているグルタミン合成酵素には、細胞質局在型のGS1と葉緑体局在型のGS2が存在し、GS1には「アイソザイム」と呼ばれる同一の生化学反応を触媒する複数の酵素群が存在している。
研究グループは今回、細胞質局在型グルタミン合成酵素OsGS1のアイソザイムの中で、生育初期段階で発現するOsGS1;1とOsGS1;2それぞれの遺伝子(Osgs1;1、Osgs1;2)を破壊した変異型イネを作って、変異の影響を調べた。
その結果、Osgs1;1 変異体の根では糖類やアミノ酸類の蓄積バランスが崩れたのに対し、Osgs1;2ではアミノ酸類の量の減少が認められた。すなわち、OsGS1;1は炭素・窒素代謝の恒常性制御を担っており、OsGS1;2はアミノ酸生合成に影響を与えていることが示唆された。
また、Osgs1;1 変異体では、光合成を行わない根の部分に葉緑体が形成されることが明らかになった。これは、OsGS1;1の働きを抑制すると根に葉緑体が形成されることを意味しており、世界で初めての発見という。
根における葉緑体の形成にはGLK2という転写因子が深く関わっていることが知られているが、Osgs1;1 変異体の根における葉緑体形成にはこの転写因子は関与しないことも見出した。
窒素同化に関連した葉緑体形成の仕組みを今後明らかにすれば、根に光合成能力を付加する新たな方法の開発が考えられるという。
これらの成果により、Osgs1;1遺伝子 は炭素・窒素代謝の恒常性や葉緑体形成など広範な現象に関わり、Osgs1;2遺伝子は代謝中のアミノ酸生合成制御に特に関わっていることが判明、2種類のアイソザイムの役割の違いが浮き彫りになったとしている。