鮮やかな赤い木材になる桑の樹の秘密を解明―リグニン合成の経路が普通と違うこと見つける:東京農工大学/農業・食品産業技術総合研究機構ほか
(2020年2月19日発表)
東京農工大学、(国)農業・食品産業技術総合研究機構などの共同研究グループは2月19日、鮮やかな赤い色の木材をつくる桑の野性種「赤材桑(せきざいそう)」が赤くなる仕組みを解明したと発表した。含まれているリグニン分の分解性が一般の木材より良く有用成分の分離が容易なことも分かったという。
桑といえばカイコで、養蚕が中国で始まったのは約5,000年前とされ、日本でも同2,000年の歴史がある。赤材桑は養蚕に使われる桑ではなく、大正元年頃に北海道南西部の奥尻島で発見された野性種で、幹や枝が鮮やかな赤い色をしている。
だが、赤材桑が赤色の木材をつくる原因遺伝子や赤い木材の化学成分は全く解明されていなかった。
共同研究には、(国)産業技術総合研究所、(国)森林研究・整備機構と米国のウィスコンシン大学、ベルギーのゲント大学が参加した。
研究では、まず赤材桑と普通の桑の両方の木材を特殊な方法で処理し分解産物を比較するなどした。すると赤材桑に含まれるリグニンが特殊な構造になっていてリグニン合成に関与する「シンナミルアルコールデヒドロゲナーゼ(CAD)」と呼ばれる遺伝子に機能不全が生じているのではないかということが分かってきた。
そこで、さらにそれを確かめるため、遺伝子の塩基配列を高速で読み出せるシーケンサーにかけて赤材桑と通常の桑のゲノムDNA(全てのDNA配列情報)を解読してCAD遺伝子の全塩基配列を明らかにした。
その結果、赤材桑には違う塩基が一つ入っていてCAD遺伝子が完全に壊れていて通常品種の桑で働いているCAD遺伝子が働いていないことが分かった。
通常の桑は、アミノ酸の一種フェニルアラニンからケイ皮アルデヒド類、ケイ皮アルコール類、リグニンという生合成ルートをとる。
赤材桑では、そうはならずCAD遺伝子が破壊されているために十分な量のケイ皮アルコール類が合成されず、研究グループはその代替としてCAD遺伝子が関与しないケイ皮アルデヒド類の重合反応が起こって中間体であるケイ皮アルコール類を経ないで通常と異なる分子構造のリグニンができていることを突き止めた。
赤材桑の木材は色が通常の桑と違うだけでなく、アルカリ性条件下でのリグニンの分解性が良いのも分かった。
リグニンは、天然の高分子で、木材からパルプなどを得るにはリグニンをアルカリや酸で分解して除去する必要がある。赤材桑の木粉をアルカリ溶液で前処理して酵素を働かせたところブドウ糖に変わる糖化率が通常の木材の1.7倍前後にもなり糖化が格段に容易なことを確かめているという。