すす粒子の沈着量の変遷を20年にわたって観測―年々変動が大きく、中国大陸からの黄砂の飛沫と増大が一致:産業技術総合研究所ほか
(2020年3月18日発表)
(国)産業技術総合研究所環境管理研究部門の兼保直樹研究グループ長と北海道大学大学院工学研究院の村尾直人准教授、同大北極域研究センターの安成哲平助教らのグループは3月18日、北海道札幌市と利尻島に沈着したすす粒子の20年間の変遷を分析し、年毎の変化が非常に大きかったことを見つけたと発表した。中国大陸からの黄砂の大量飛来の最大時期と、すす粒子の沈着量の増大が一致していることから、すすを含む大気汚染物質が黄砂とともに大量に運ばれた可能性を指摘している。
すす粒子は化石燃料の燃焼や森林火災などの際に不完全燃焼によって生じる。放出されたすすが落下すると雪氷面を黒く汚染し、太陽光の反射率が落ちるため地表付近の温度を高める効果がある。
この積雪汚染効果は気候変動にも影響を与えると考えられ、1980年代以降、世界各地の雪氷圏で表面の雪を採取する研究が数多く実施されてきた。中緯度帯で長期的に連続した観測データには、ヒマラヤ山脈とアルプス山脈などの氷河でボーリング掘削による雪氷・アイスコア観測があった。ところがこれらは世界最大のすす排出国の中国より風上にあたるため、観測には適してなかった。
一方、日本では1970年代半ばから各地で酸性雨調査を目的とした降雨調査がなされていた。この調査では降雨に混じる土の粒子やごみなどを除くため、薄膜フィルターが使われた。フィルターは使用後ほとんどが廃棄処分されているが、たまたま北海道環境科学センター(現北海道立総合研究機構)が札幌市と利尻島で連続観測を続け、その使用済みの大量のフィルターを保存していた。
研究グループは、このフィルターに付着していたすすの量を分析し、過去の沈着量の推移を調べた。その結果、2000年から2012年間の分析によって「2000~2001年」と「2010~2011年」の2回大きなピークが見つかった。
「2000~2001年」の沈着量が大きい原因は、2000年、2001年ともに黄砂現象が国内で極端に増加したことが考えられる。また黄砂と共にすすなど粒子サイズの小さい大気汚染由来の粒子も同時に高い濃度で輸送され、降雨によって大量に沈着したと推定した。
この研究で、すす粒子沈着量の年々変動が非常に大きいことが発見されたことから、比較的短い期間のデータでは全貌を捉えることが難しく、気候モデルの検証に誤差を与えてしまう可能性があると指摘している。