異常拡散現象の微視的な数理構造を解明―遊走微生物で構成された系を題材に理論体系を構築:筑波大学
(2020年3月19日発表)
筑波大学とスイス連邦工科大学、ロンドン大学などの研究グループは3月19日、物質の拡散現象の一つで、異常拡散の代表例とされる「レヴィ・フライト」と呼ばれる異常拡散が現れる微視的な数理構造を解明したと発表した。
熱平衡状態の水に小さな粒子を浮かべると、その粒子はランダムに動きながら徐々に拡散する、いわゆるブラウン運動をする。ブラウン運動は変位が正規分布に従う通常拡散の代表例。それに対し、通常拡散とは数学的に大きく異なる拡散を総称して異常拡散といい、その代表例のレヴィ・フライトは変位がベキ分布に従う。
金融市場での暴騰・暴落や、地震のような間欠性を伴う現象は広い意味での異常拡散で、レヴィ・フライトと関係あると考えられている。レヴィ・フライトの大きな特徴は、物質が拡散する際にまれに非常に大きな変位を伴うこと。小さな変異が積み重なって形成されるブラウン運動とはそこが大きく異なっている。
では、なぜレヴィ・フライトは複雑な実世界を記述できるのか。レヴィ・フライトという異常拡散はなぜ現れるのか。レヴィ・フライトは非平衡系の拡散モデルであり、これまではその微視的な発生機構を理論的に解明することは困難だった。
研究グループは今回、レヴィ・フライトが実世界で現れることを証明できる微視的な理論体系の構築に挑戦、遊走微生物で構成される系を題材に選び研究した。
この系では水の中に遊走微生物が遊泳している。遊走微生物はある程度まっすぐに泳ぎ、泳ぐ方向をランダムに変える。そこに小さなトレーサー粒子を浮かべ、微生物が作り出す流れ場を流体力学中の力学系としてモデル化した。さらに、この力学系に対して統計物理学の分子運動論の手法を用い、レヴィ・フライトが現れること、つまり、トレーサー粒子がレヴィ・フライトを示すことを理論的に示した。
今回の研究成果は自然界や人間社会における様々な異常拡散現象を統一的に理解するのに役立つ可能性があるという。