日本周辺で熱帯・亜熱帯性魚類の分布が北上か―相模湾周辺で北限を更新する海域から7種を採集:筑波大学
(2020年3月30日発表)
図 今回、相模湾周辺で記録された熱帯・亜熱帯性魚類7種。A. オニボラ; B. チャイロマルハタ; C. ニセクロホシフエダイ; D. オオクチユゴイ; E. カマヒレマツゲハゼ; F. ヒトミハゼ; G. カスミフグ。
神奈川自然誌資料 No. 41 p. 75より(写真:瀬能 宏 撮影)
筑波大学と神奈川県立生命の星・地球博物館の共同研究グループは3月30日、温帯の相模湾(神奈川県)周辺で熱帯・亜熱帯性魚類の分布が北上していることを示す調査結果が得られたと発表した。海洋の魚類分布が地球温暖化によって受ける影響の研究がこれを端緒に進むことが期待される。
産業革命以降の地球温暖化によって海水温の上昇傾向が続いている。気象庁発表の「海面水温の長期変化傾向」によると日本近海の平均海面水温はこのおよそ100年間で1.14℃上昇しており、日本の気温上昇とほぼ同程度となっている。
このため、琉球列島から南の熱帯・亜熱帯域に生息していた魚類などの海洋生物が暖流の黒潮に乗って九州以北の温帯域に北上してきて生物相が変化することが懸念され、実際に本来なら南の海にしか生息しない魚が関東周辺の水域で見られるようになってきている。たとえば、本州では産卵しない熱帯魚のクマノミの繁殖が伊豆半島沖で見つかった、といったことなどの報告がでている。
しかし、そうした魚類の分布動向を詳細に調べる研究はこれまであまり行なわれていなかった。
こうしたことから、共同研究グループは、海水温の上昇傾向と熱帯・亜熱帯海域に分布する魚類の動向をモニタリングしようと、相模湾周辺の沿岸域や河川で継続的な魚類採集調査を続けてきた。
その結果、2017年9月から2019年8月まで行った伊豆半島(静岡県)から房総半島(千葉県)にかけての相模湾周辺海域での調査で、これまでの分布の北限や東限を更新する水域で7種の熱帯・亜熱帯性魚類を採集した。
さらに、得られた7種全てについて過去の文献や、生命の星・地球博物館が収蔵している魚類標本資料、写真資料を使って調査を加えたところ、7種の内のチャイロマルハタ、オオクチユゴイ、カマヒレマツゲハゼの3種については既に本州や四国などの温帯海域で越冬していることがうかがえた。
チャイロマルハタが越冬しているとみられる海域の中には、下水処理水や工場排水が流入し冬でも海水温の高い水域が多数ある東京湾が含まれていていることも判明、研究グループは「こうした人工排水による海水温・河川水温の上昇も、熱帯・亜熱帯性魚類の越冬を促進している可能性が考えられる」と分析している。