室温で作動する固体酸化物燃料電池のための極薄電解質膜の開発―物理吸着した水分子膜を使ったプロトン伝導:東京理科大学/高エネルギー加速器研究機構ほか
(2020年4月3日発表)
水素イオン(プロトン)が水(液体)に供給されると、ある水分子をヒドロニウムイオン(H3O+)化し、それがさらに隣の水分子へとリレー式に伝わっていく
(提供:東京理科大学 樋口 透)
東京理科大学の樋口透准教授、高エネルギー加速器研究機構(KEK)らの研究グループは4月3日、酸素欠陥と結晶格子を制御したSDC薄膜をスパッタ法により作成し、表面構造および特異なイオン電導性を明らかにした、と発表した。
酸化物ナノ構造膜は基礎物性科学としても、材料開発・デバイス応用としても重要な研究テーマである。電気を流さない酸化物誘電体において、陽イオン化している原子を異なる価数を持つ原子に置き換えることで、自由電子を供給できる。これにより半導体的な電子的挙動を獲得させたり、高いイオン伝導性を示すようにできる。
このような物質は「ワイドギャップ酸化物半導体」と呼ばれ、「ナノイオニクス」という新たな分野として基礎・応用の両面から研究が進められている。その中でも、直接的に重要な応用が展開する「室温を含む温度領域で安定に作動するクリーンで高効率な固体酸化物燃料電池(SOFC)の研究」が特に活発化している。
しかし現状では動作温度が高く、用途が限定されていたるため、より低い温度でイオン電導性を有する固体電解質膜の開発が待たれている。
このような状況で今回の研究では、Ce0.9Sm0.1O2-δのバルク結晶と薄膜の伝導特性を構造解析に基づいて調べた。その結果、表面の状態(ドライかウエットか)に大きく依存していることが分かった。
まず150℃以上の高温域では従来見られた温度ともに増加する伝導が得られ、空気極(外部回路から電子を捕獲する極)で酸素が(マイナス2価に)イオン化し、それが伝導する機構を使って説明出来た。
他方、特記すべき結果として、100℃~21℃の範囲で、温度の低下と共に増加する伝導が現われた。これは、燃料極(外部回路へ電子を放出する極)に付着した水素ガスが(プラス1価に)イオン化して、図に示すようなプロトン伝導が起こっていることが予測される(グロータス機構という)。この機構は水素イオン(プロトン)が水素結合を仲介としてリレー式に移動する仕組みで、表面に物理吸着した水(ウエット)面の水分子が本質的な寄与している。
これが燃料電池としての実用性に寄与するかどうかは、電極(水素ガスがイオン化反応をする燃料極および酸素ガスがイオン化反応をする空気極)での反応の詳細、酸素利用率、電解質膜の内部抵抗や電極界面抵抗が重要な鍵を握っている。
現在、比較的低温で作動する安定かつ高効率な発電特性を実現するための、条件の最適化研究も進められている。