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シカの侵入防止柵が、植物と昆虫の多様性を回復させる―草原生態系での保全効果を初めて解明:兵庫県立人と自然の博物館/東京大学/森林総合研究所ほか

(2020年4月4日発表)

 兵庫県立人と自然の博物館の中濵直之研究員と(国)森林総合研究所の小山明日香主任研究員らの研究グループは44日、草原にシカの侵入を防ぐ防鹿柵を設置したことによって、開花植物やチョウ、マルハナバチの種類と個体数が増え、多様性が回復したことを確認したと発表した。日本各地でも防鹿柵を設置すれば、シカの食害を防ぎ生物の多様性が保全されると期待している。東京大学大学院、神奈川大学、長野県環境保全研究所との共同研究による。

 ニホンジカの全国的な増加で草原の開花植物に食害が目立つようになり、生物多様性に大きな影響が出ている。森林生態系での防鹿柵の設置は増えつつあるものの、人手をかけて火入れや草刈りなどをする半自然草原ではほとんど手付かず状態だった。

 シカによる被害は、餌となる草植物だけでなくその花に訪れるチョウ類やマルハナバチ類などの昆虫にも影響が及んでいる。こうした昆虫が減ると花粉の送受粉がうまくいかず植物の繁殖にも悪影響が生じる。

 長野県の霧ヶ峰高原ではニッコウキスゲなどの野生植物は貴重な観光資源だが、2000年ごろからシカによる食害が進んでいた。そこで2008年ごろから防鹿柵の設置を進め、現在では27ha(ヘクタール)と国内でも有数の規模で野生生物の保護に取り組んだ。

 研究グループは霧ヶ峰の柵の内側と外側で、2017年と2018年の6月と8月に、開花植物、チョウ類、マルハナバチの種類や個体数がどのように変化したかを調査した。その結果、柵で保護された内側では、外側よりも開花植物の種類、チョウとマルハナバチの種類、個体数共に多いことが認められ、開花植物や訪花昆虫の回復が明らかになった。

 植物の種類が増加すると昆虫の種数も増加することから、昆虫の多様性を保つためにはより多くの植物の保全が重要であるとしている。