超流動ヘリウム中の乱流を可視化へ―ヘリウム分子が放つ蛍光の観測装置を開発:名古屋大学/J-PARCほか
(2020年4月10日発表)
名古屋大学とJ-PARC、中性子科学センター、京都大学の共同研究グループは4月10日、超流動ヘリウムに生じる乱流の可視化に向け、ヘリウム分子(4He2)の小型・可搬型観測装置を開発したと発表した。超流動ヘリウムに中性子ビームを照射すると生成される「エキシマー」と呼ばれるヘリウム分子が発する蛍光を捉える装置で、これまでよりも効率的にエキシマーの蛍光を観測できる。エキシマーを増やせば流れの可視化が期待されるとしている。
乱流は水や空気の流れの中でよくみられる現象で、生活にも深く関わっている。しかし、科学的には解明されていないことが多く、理解を深めるために近年、超流動における乱流への関心が高まっている。
超流動は、摩擦抵抗がゼロで、永久流が生じる現象。ヘリウムは絶対温度2.17K(ケルビン、1Kは約-273℃)以下でこの状態に転移する。超流動状態における乱流は量子乱流と呼ばれ、渦が安定に保たれ、1つずつ数えられるなど通常の乱流よりも取り扱いやすいことから、通常の乱流の理解につながる可能性があるとされている。
超流動ヘリウムの流れの把握にこれまでは微粒子トレーサーを用いる方法が試みられてきたが、粒子のサイズが大きく渦を乱してしまうという欠点があり、流れを正確にとらえることは難しかった。
そこで研究グループは、ヘリウム分子(4He2)をトレーサーとして超流動ヘリウムの流れを可視化することを目指し、中性子施設内に設置できる可搬型の観測装置を開発した。
ヘリウムは通常単原子として存在しているが、放射線などで励起すると、原子と原子が結合した2原子分子のエキシマー(4He2)を形成する。このエキシマーに特定の波長のレーザーを照射すると蛍光を発するので、これを捉えれば超流動の流れが追えることになる。
J-PARCのパルス中性子ビームや京大原子炉の連続中性子ビームを用いて実験したところ、パルスレーザーの同時照射で生じた蛍光の測定に成功した。この蛍光はエキシマーによるものであることも確認された。
液体ヘリウム中に微量に存在するヘリウム同位体(3He)と中性子は反応し、荷電粒子を放出してヘリウム(4He)に刺激を与えるほか、ビーム由来のガンマ線によってヘリウムが励起し、ヘリウム分子エキシマーは形成される。
今後ヘリウム同位体(3He)由来のヘリウム分子エキシマーを増やすよう調整することで超流動ヘリウム中の流れを可視化できるようになると期待されるという。