苗をリン液に漬け移植することでイネの増収・冷害回避を実証―マダガスカルのコメの自給達成と貧困改善に役立てる:国際農林水産業研究センターほか
(2020年4月24日発表)
(国)国際農林水産研究センターは、マダガスカル国立農村開発応用研究センターと共同で、リン酸液に漬けた移植苗がイネの増収と生育日数の短縮などにつながることを実証したと4月24日に発表した。土壌の栄養分が乏しいアフリカのサブサハラ地域で、この施肥技術をイネ増産と食糧安全保障に役立てたいとしている。
アフリカ大陸南東にあるマダガスカルは、コメが主食で日本人の2倍以上も消費する。ところがイネの生産性が低いため、国民の大半が1日1.9ドル未満で暮らす世界の最貧国の一つに挙げられている。
生産性の悪さの原因は、貧しさのために肥料が購入できないことと、この地域の土壌の栄養分が不足していることによる。土壌が3大栄養素の一つのリンを吸収してしまうことから、イネに回らないという特殊事情があった。
日本でも鹿児島県の火山灰土壌地帯では、土壌が肥料中のリンを吸収してイネに回りにくい問題があった。農民は伝統的にリン肥料やリンを多く含む骨粉を苗の根に揉(も)み付けてからイネを移植するという「揉付(もみつけ)」法を実践してきた。
国際農研はこの揉付法をヒントに、少ない肥料でも効率的にイネの生産性を改善できるリン浸漬処理法を開発し、マダガスカルに移転した。リン肥料(重過リン酸石灰)と水田土壌を混ぜた泥状の液体に苗の根を30分ほど浸してから移植するもので、小規模農家でも実践しやすい方法だ。
マダガスカルの農家で2年間にわたり試験栽培し、無施肥に比べて約59~171%も籾の収量増加を確かめた。熱帯地方の栄養が不足した土壌で、施肥法の効果が高いことが明らかになった。
リン浸漬処理は、施肥をしない時に比べて約3週間もイネの生育期間を短縮できた。さらに標高の高い地域で起きる低温ストレス(イネの登熟不良)も回避できることを初めて実証した。
国際農研はマダガスカルの共同研究機関や肥料会社などと協力し、改善すべき課題を拾い出す。その上で同国政府の目指す2023年までの米の自給達成や、サブサハラ地域の安定的なイネ生産につなげ、地域の食料安全保障と貧困改善に役立てることにしている。