奇妙な花を咲かせるカンアオイの進化の道筋を解明―キノコに似せた擬態のナゾ解明の足掛かりに:国立科学博物館ほか
(2020年4月24日発表)
ランヨウアオイ(カンアオイの1種)
(提供:国立科学博物館)
(独)国立科学博物館の奥山雄大研究主幹のグループは4月24日、日本列島で急速な多様化を遂げた常緑樹植物のカンアオイ類が、どのように進化し多様性を確保したかの道筋を、新しい超並列型の遺伝子解析法によって解明したと発表した。この系統樹から色、形、香りなど花の形質進化の謎などが解明できるとみられる。東京都立大学、龍谷大学、京都大学、中国・浙江理工大学との共同研究の成果となった。
カンアオイは、徳川家の家紋に使われたフタバアオイの近縁種。種ごとに花の色や形、香りが大きく異なり、奇妙な姿が魅力とあって、長い間、研究者や植物愛好家に関心を持たれてきた。
カンアオイは日本に50種分布しており、うち49種が日本固有だ。他に台湾で10種、中国でも2種しか見つかってない。国立科学博物館 筑波実験植物園(茨城県つくば市)は、カンアオイ類を植物の適応進化や種分化を解明するための研究材料として重点的に収集してきたが、種間の“家系図”ともいわれる進化系統関係は未解明のままだった。
そこで、新しい超並列DNAシーケンシングによる遺伝子解析法(ddRAD−seq法)と、従来の遺伝子解析法(サンガー法)の双方を使って、カンアオイのルーツの進化系統を比較した。超並列法はぼう大なデータから複数のDNA配列を一気に決定でき、サンガー法は一つ一つのDNA配列を精度良く決められるのが特徴。
日本産を含むカンアオイ類54種、128個体を抜き出し進化系統の解明に着手した。その結果サンガー法では難しかったものの、超並列マシンによって極めて解像度の高い分子系統樹を推定できた。ほとんどの種を網羅した詳細な系統関係が解明され、現在使われている種分類体系が概ね遺伝的に妥当であることが確認できた。
最初に他の種から分かれたのは、中国東海岸に分布する落葉性の種「トコウ」で、それ以外の種は9つの系統群に分かれた。長い年月を経て多様化する過程で、ほとんどは近い場所にだけ移動分散してきたと思われる。これは植物系統学、分類学の先駆者である前川文夫博士が、かつて移動分散能力を「1万年で数Km」とした説とだいたい合致していた。
カンアオイ類の花はキノコなどに姿を似せることで、花粉を運ぶ昆虫をだましながら繁殖してきたとみられる。今回の成果で花の色や形、香りの進化の繰り返しパターンが特定できるようになれば、擬態に有効に働いた形質や、進化の仕組みの謎を解明できるようになるとみている。