水素液化用の世界最高性能の磁気冷凍材料を発見―水素ガス液化効率の向上や液化コストの低減に貢献:物質・材料研究機構ほか
(2020年5月12日発表)
(国)物質・材料研究機構は5月12日、水素の液化に用いる世界最高性能の磁気冷凍材料を、人工知能の手法の一つである機械学習を用いて発見したと発表した。水素ガスをこれまでよりも効率よく冷凍・液化できることから、水素社会実現への貢献が期待されるとしている。
二酸化炭素を出さない水素はクリーンな燃料として期待されているが、ガスのままではかさばり、貯蔵や輸送のために液化して体積を小さくすることが求められている。しかし、水素の液化温度は-253℃と非常に低いため、従来のコンプレッサーによる液化ではエネルギーの無駄が多く、液化効率は25%程度と低い。
これに代わる新たな水素液化法として注目されているのが、50%以上の効率が期待される磁気冷凍法。磁気冷凍は、磁場中に置かれた磁性体が、磁場を取り除いた際にエントロピーが増大し、その変化分のエネルギーが吸収されることにより温度が下がるという原理を用いた冷凍法。したがって、水素液化温度付近でエントロピー変化が大きい磁気冷凍材料の発見が求められていた。
研究グループは今回、機械学習を用いて、二ホウ化ホルミウム(HoB2)という磁性体が水素液化温度付近で世界最高性能の磁気冷凍材料として機能することを発見した。
エントロピー変化が既知である約1600個の物質データを論文から集め、組成とエントロピー変化の関係を機械に学習させた。それをもとに、エントロピー変化が未知の約800個の強磁性体について、エントロピー変化を機械に予想させたところ、比較的高い値を示す候補物質が34個見出された。
その中から2元素で構成された材料に絞り込んで合成し評価した結果、二ホウ化ホルミウムが-253℃付近では世界最高の、非常に大きなエントロピー変化を示すことが分かった。しかも、この物質は動作温度域が広いのが特徴で、1つの材料で水素液化温度近くの広い温度域を冷却でき、水素の液化・貯蔵に適している。
今後、二ホウ化ホルミウムが高いエントロピー変化を示すメカニズムを解明すれば、新たな高性能磁気冷凍材料の発見も期待される。こうした材料を粒子または線材に加工する技術や耐水素コーティング技術などを開発し、磁気冷凍装置を完成させれば、水素の液化効率や液化量の向上、液体水素の価格の低減などが図れ、水素社会への貢献が期待されるとしている。