都市のCO2排出量推定に新手法―大気観測で起源別に:産業技術総合研究所ほか
(2020年5月15日発表)
(国)産業技術総合研究所と(国)国立環境研究所は5月15日、大都市の二酸化炭素(CO2)排出量を起源別に推定する手法を開発したと発表した。化石燃料の種類によって燃焼時に使う酸素量が異なる点に注目、上空のCO2と酸素の濃度を高精度に観測・比較してCO2の起源が自動車を中心とする石油か、都市ガスかなどを推定する。CO2排出ゼロを目指すゼロエミッション技術を大規模導入する際に、その削減効果の検証に役立つ。
産総研はこれまでに、大気中の酸素濃度を100万分の1の超高精度で測定する技術を開発してきた。今回はその技術に、従来は主に森林によるCO2吸収の評価に用いられてきた鉛直方向のCO2輸送量の計測法を組み合わせ、大都市のCO2の排出起源を燃料別に推定する手法を実現した。
化石燃料を燃やす時に必要とする酸素の量とCO2の発生量の間には、化石燃料の種類によって一定の関係「酸素とCO2の交換比(OR)」があることが、これまでの研究からわかっている。そこで研究グループは、大気中で鉛直方向のCO2輸送量を超高精度測定し、鉛直方向の酸素とCO2の交換比を計算することで、局所スケールのCO2排出を化石燃料別に評価できるようにした。
実験では、東海大学代々木キャンパスの観測タワーで高度52mと37mで酸素とCO2の濃度を観測、高度別の濃度の違いから鉛直輸送での交換比(OR)を計算して局所的なCO2排出を化石燃料別に評価した。さらにその数値を、代々木周辺の自動車交通量と家庭や飲食店の都市ガス消費統計データに基づくCO2排出量と比較した。その結果、CO2排出量は実際よりも過大に見積もられる可能性があるものの、給湯・調理に伴う早朝の都市ガス消費のピークや、通勤時の交通量増加に伴って石油消費が増えていく様子が見て取れた。
この結果から、研究グループは「大気観測に基づいて自動車と都市ガス由来のCO2排出量を街区スケールで分離評価することが可能になった」としている。今後は化石燃料起源と生物起源のCO2排出量を分離して、大気観測だけで石油・都市ガス・人間呼吸によるCO2排出量をそれぞれ評価できるようにする。