色素を欠いたノックアウト・ウニの系統作成に成功―ウニ研究に分子遺伝学の導入が可能に:筑波大学ほか
(2020年5月19日発表)
筑波大学生命環境系 下田臨界実験センターの谷口俊介准教授らは5月19日、ハリサンショウウニを使って色素遺伝子の一部を破壊(ノックアウト)したウニの系統作成に世界で初めて成功したと発表した。世代交代周期が比較的短い半年間のウニをみつけ、遺伝子改変技術の適用を確認したことから、生物の器官や組織ができる過程の解明などに役立てられるとみている。国立遺伝学研究所、お茶の水女子大学、広島大学との共同研究による成果。
ウニは採集しやすく、卵や精子も手に入れやすいため、昔から発生生物学や進化学などのモデル生物として使われてきた。しかし欠点は世代交代周期が1−2年と長いこと。このため2週間のショウジョウバエや3−4か月のマウスにモデル生物の座を奪われていた。
研究チームは、ハリサンショウウニが約半年間と短い周期で世代交代することを見つけた。これは新しい遺伝子改変技術(CRISPR-Cas9)を使ってDNAの二本鎖を切断し、ゲノム配列の任意の場所を削除し、置換や挿入ができる。
ウニの色素合成を担うポリケチド合成酵素を標的にCRISPR-Cas9で遺伝子を破壊し、色素が欠損したことを確認した。変態時に色素を欠いたものだけを飼育し、約半年間成長させたところ、数匹が成熟した。
そこから精子を採取し、野生型のメスから採取した卵と受精させ、発生させた(F1世代)。この時の精子には、ポリケチド合成酵素の変異型として2つのタイプがある。このうちA-Typeのオスから精子を、同じタイプのメスから卵を採取し受精させることで、ポリケチド合成酵素遺伝子に関して「ホモ接合型変異体」「ヘテロ接合型変異体」「野生型」の3タイプのウニの幼生を第2世代として得た。
受精後2−3日目から、色素があるもの(ヘテロ接合型変異体と野生型)、色素が全くないもの(ホモ接合型変異体)を顕微鏡で選別し、色素を欠いたウニと色素を持ったウニを目視で簡単に分別できるようになった。こうして新しい遺伝子改変技術を世代周期の短いハリサンショウウニに適用し、色素のないウニを作成した。
ウニは長い間モデル生物として使われてきたため世界中で研究が進んでいる。神経や筋肉、血管、消化管などの器官や組織が作られる細胞の運命決定の解析など初期発生は、ウニが最も進んでいる。今回の成果によって後期発生である幼生が稚ウニに育つ変態の過程の分子メカニズムなどが解析できる可能性が生まれてきた。