衛星レーダーの5年分の全画像をカラー化し公開―熱帯雨林の違法伐採や、稲作の広域発育状況の把握に貢献:産業技術総合研究所
(2020年5月22日発表)
(国)産業技術総合研究所人工知能研究センターの中村良介研究チーム長らは5月22日、人工知能処理向け計算機(ABCI)を使って人工衛星に搭載のマイクロ波センサー「PALSAR」で取得した全データのカラー画像を作り、一般に公開したと発表した。災害後の被害状況の把握や違法森林伐採の監視、稲作の発育や分布の把握などに役立つ。
「PALSAR」は陸域観測技術衛星「だいち」に搭載されたマイクロ波センサーで、2006年1月に打ち上げられた。衛星からマイクロ波を地上に照射し、その反射波を受信する能動型のため、天候や昼夜に影響されずに観測できるのが強み。
地上約700Kmから撮影した画像で全世界の2万5,000分の1の陸域地図が作られ、資源探査や東日本大震災の災害状況の把握などにも貢献した。
約5年間の運用期間(2006年1月〜2011年4月)中に取得した全データは約200万シーン(700TB)にも上るビッグデータで、当時は計算能力の不足から一部に目的を絞ってデータ処理していた。
その後2018年から運用を開始した、産総研の持つ世界最大規模の人工知能処理向け計算システム「AI橋渡しクラウド(ABCI)」を利用して、大量の衛星画像から効率的に地上の物体や地表面の変化を識別し、その要因や発生した出来事などを認識、分析できることを確認した。
さらに衛星データの全地球全数処理によって地表面の状態を詳細に解析するために、送信アンテナと受信アンテナを水平、垂直に4通り組み合わせた4偏波モードでデータを取得した。
散乱ごとに得られる情報を青色、赤色、緑色に色分けした。これによって「水面や裸地」「人工物」「植生」などが色分けでき、カラーレーダー画像としての表示を実現した。
例えば南米の熱帯雨林に注目して変化を見ると、体積散乱が多く見られる森林部分は緑色、表面散乱が多い伐採地は青色で示され、年月とともに森林(緑色)が伐採(青色)に変わっていく様子が見て取れた。赤色は二回反射散乱が多いところで、伐採後に新たに草木が成長してきたものと判断できる。こうして熱帯雨林の定期的な観測によって伐採過程がリアルに把握でき、計画外の違法伐採が一目瞭然で検出可能となる。
衛星「だいち」は夜間や降雨時でも世界中の地表面情報を46日置きに定期的に取得できる。カラー画像に処理して公開し、無料で自由に利用できるようにすることで、グローバルな水産管理や社会インフラの保全など地球規模の社会的課題解決に寄与できるものとみている。