ガラス化しない酸化物液体のナゾ解明―革新材料開発に新たな道筋:宇宙航空研究開発機構ほか
(2020年6月2日発表)
(国)宇宙航空研究開発機構や琉球大学、(国)物質・材料研究機構、ノルウェー科学技術大学などの国際共同研究チームは6月2日、結晶化せずに固体になるというガラス化が起きない物質「酸化エルビウム(Er2O3)」のナゾを解明したと発表した。Er2O3液体の原子配列と電子状態の測定に初めて成功、液体なのに結晶に似た周期構造の存在があることを突き止め、ガラスについての定説を覆した。革新的な材料の開発や地球内部の理解に役立つという。
ガラスは原料を加熱して液体にした後、急冷して作製するが、どんな物質でもガラスになるわけではないことが知られている。ガラスになる液体とガラスにならない液体では原子配列に違いがあることが以前から指摘されているが、原子・電子レベルでの解明は難しくガラス科学における大きなナゾとされていた。
研究チームは今回、ガラスにならない物質の一つであるEr2O3に注目、その原子配列や電子状態の解析を試みた。ただ、Er2O3の融点は2,413℃と極めて高いため、従来の容器を用いた手法では容器自体と化学反応が起きたり、容器に熱を奪われたりして液体状態を保つことが難しかった。
そこで研究チームは、①国際宇宙ステーション日本実験棟「きぼう」の微小重力環境、②大型放射光施設「SPring-8」から得られる高エネルギーX線を用いて地上で浮遊させる技術を用い、2,650℃の超高温で溶融するガラスにならないEr2O3液体の原子配列と電子状態を解明することに成功した。その結果、Er2O3液体は多様な多面体で構成され、多数の原子が詰まった状態で液体であるにもかかわらずその構造には高い周期性があることが分かった。液体とは周期的な構造がなく原子がバラバラになっているもの、という従来の定説を覆した。
今回の成果は、高温液体から作られるガラスやセラミックス材料の開発のほか、高温液体であるマグマから鉱物が形成される過程など地球の成り立ちを理解する道筋を示す上でも重要な成果になる、と研究チームはみている。