遷移元素を含む物質の「隠れた秩序」の観測に成功―クローバー型とダンベル型の2種類の秩序を発見:東京大学/高エネルギー加速器研究機構
(2020年6月4日発表)
東京大学と高エネルギー加速器研究機構(KEK)、(国)理化学研究所の共同研究グループは6月4日、遷移金属を含む物質に潜む「隠れた秩序」の観測に世界で初めて成功したと発表した。隠れた秩序は「多極子の整列パターン」と呼ばれている現象で、この観測によって遷移元素の特殊な性質の理解や応用の進展が期待されるという。
遷移元素は周期表の第3族元素から第11族元素の間に存在する元素の総称で、鉄やコバルト、ニッケル、白金などはこの仲間。
遷移元素の中でも白金など原子番号が大きな元素では、相対論的な効果によって、電子は特殊な性質を示すことが近年認識されている。この特殊な性質によって現れる特徴的な現象として予測されてきたのが、多極子の整列パターン。
磁石のN・S極、電池の正・負極を双極子というが、多極子とは4極子や8極子を指す。
これまでは多極子の観測に適した物質が見つかっておらず、また観測が難しいことから、多極子の整列パターンに関する明確な実験的証拠は得られていなかった。
研究グループは今回、レニウムという遷移元素を含む物質に目をつけ、非常に純良な結晶を作製、これに放射光施設で得られる放射光X線を照射して結晶構造を詳細に調べた。
その結果、原子の位置を1兆分の1m(1pm、ピコメートル)という超高精度で測定することに成功、周囲の酸素原子のわずかなずれから多極子の存在が認められた。さらに、酸素の動きを詳しく解析したところ、それぞれ4つの極を持つクローバー型とダンベル型2種類の多極子が共存していることが分かった。
クローバー型の多極子の整列は理論的に予測されていた通りで、理論のモデルが現実の物質の特徴をよくとらえていることが明らかになった。一方ダンベル型の多極子の整列は予想されたものではなく、理論を超える発見であった。
今回観測された多極子の整列は、電子の自転運動(スピン)と原子核の周りの軌道回転運動が影響しあう電子の示す基本的な現象の一つで、今後このスピン軌道相互作用に関連する研究の進展が期待されるとしている。