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湖沼の水草の絶滅の危機、気候変動の影響が大きい―120年間のデータから原因を突き止め、対策を訴える:国立環境研究所

(2020年6月4日発表)

 (国)国立環境研究所気候変動適応センターのキム・ジユン特別研究員と西廣淳室長は64日、全国の湖沼の水草の分布記録から、水草の種の変化が受けた影響分析を実施し、気温や降水量など気象条件の影響が大きいことが明らかになったと発表した。気候変動の進行を食い止めないと、水草の約4分の1の種が絶滅する恐れがあると警告している。

 湖沼の水草は、地球上の生物の豊かさの構成要素であると共に、魚の産卵には不可欠であり、漁業などの人間活動とも深くつながっている。近年、日本の湖沼では水草の種類が急速に減少しており、その4分の1の種で絶滅の恐れがあると指摘されている。

 これまでは、その原因が水質悪化や除草剤の影響となどと見られてきた。気候変動の影響は、長期的、広域的なデータの収集が難しいためにわからなかった。

 西廣室長らが2014年に作成した「日本の湖沼の水草分布」の総合データベースを基に、①水草の種類、変化、消失にはどんな要因があるか、②種ごとの形や性質の違いが、消失しやすさ、存続しやすさとどう関係しているか、などを検討した。

 全国の湖沼248か所に存在した58種類の水草の分布データを基に、1901年以降の①気象データ(気温、降水量など)、②周辺の土地利用(森林率、農地率など)、③湖沼の地形学的特徴(せき止め湖、火山湖など)との比較、解析を行った。

 「1900年代―40年代」「50年代―70年代」「80年代―2000年代」と期間を3つに分け、それぞれの水草の種類構成、環境条件との関係を、複数種の分布を同時分析できる統計モデル(Joint SDM)で分析した。

 その結果、ヒシ(ミソハギ科、葉が水面に浮く水生植物)やクロモ(トチカガミ科の沈水植物)は多くの湖沼で安定して存続していた反面、コウホネ類(スイレン科の水生植物)やヒルムシロ類(浮葉性植物)は顕著に減少した。特に茎も葉も水中にある沈水植物の減少が目立った。

 要因別では、気象要因による変化が14%、湖沼の周辺環境の変化が10.5%、地形学的特徴や土地利用の影響が25.4%だった。湖沼の周辺環境では、宅地や農地が増加し、気温上昇、降水量の変動量の増加が10.5%影響していた。

 種ごとの変化では、3分の2の種に気候変動による優位な影響が検出された。中でもヒンジモ、イトクズモ、オニバス、デンジソウ、ヒシモドキへの影響が目立った。これは気候変動の進行が、湖沼の水草の種類構成の変化をもたらしうることを示唆している。

 植物の形質との関係では、水中で花粉のやりとりをする植物は、降水量が多いところで存続しやすいなど、これまで知られていなかったことも調査で明らかになった。