[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

トピックスつくばサイエンスニュース

温暖化の一因“すす粒子”―中国の排出量10年で4割減少:海洋研究開発機構/神戸大学/国立環境研究所

(2020年6月5日発表)

 (国)海洋研究開発機構と神戸大学、(国)国立環境研究所の研究グループは6月5日、化石燃料などの不完全燃焼によって中国で大気中に排出されたすす粒子「ブラックカーボン(BC)」が過去10年間に4割減少していると発表した。温暖化の一因となるBC排出量の30%は中国由来とされるため、中国の排出量増加を前提に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2021年に公表する報告書も次の第7次報告書では修正が必要になるとしている。

 BC排出量はこれまで化石燃料の消費量など社会経済的な統計に基づいて推計されているが、その精度を表す統計学上の指標である不確かさの幅が中央値の0.5~2倍にも及んでいた。そのため中国の排出量については、増加しているのか、減少しているのか、定まった見解がなかった。

 そこで研究グループは、中国から偏西風に乗って汚染大気が到達しやすい長崎県福江島(ふくえじま)で大気中のBC濃度を2009年から10年以上にわたって継続観測、その推移から中国の排出量の変化を推定した。信頼性の高い2種類の計測器の測定値を統合するとともに、数値シミュレーションを併用して年ごとの気象変動の影響を取り除くようにした。その結果、中国からのBC排出量の不確かさを±27%にまで絞り込むことに成功、最近10年間で4割も減少していることを突き止めた。

 今回の結果について、研究グループは「中国でのPM2.5削減政策に伴って、その一成分であるBC排出も抑制されたため」とみている。ただ、北極方面に運ばれるBCの起源地域である中国東北部での排出量減少は鈍く、冬季だけ見るとむしろ増加傾向にあったという。そのため温暖化の傾向が顕著な北極域への影響については、今後もその推移を注視する必要があるとしている。