アルカンの臭素化の反応性を制御することに成功―半球状のバナジウム酸化物クラスターを用い実現:金沢大学/立命館大学/高エネルギー加速器研究機構ほか
(2020年6月9日発表)
金沢大学、立命館大学、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の共同研究グループは6月9日、臭素分子を分極し、アルカンの臭素化の反応性を制御することに成功したと発表した。天然ガスや原油に多く含まれるアルカンを有用な化成品原料へ変換するための、これまでとは異なる手法の実現が期待されるという。
アルカンは、メタン系炭化水素とかパラフィン系炭化水素とも呼ばれている鎖状飽和炭化水素の一般名。アルカンを構成するC-H結合は化学的に安定で、反応性に乏しく、アルカンをアルコールなどの有用な化成品原料に変換するため選択的な官能基化の達成技術が求められている。
通常、アルカンの臭素化は不対電子を持つ原子や分子で進行するラジカル機構と呼ばれる反応機構で進むが、研究グループは今回、このラジカル機構とは異なる生成物選択制の達成を目指した。
そこで取り組んだのが機能性材料として注目されている「半球状バナジウム酸化物クラスター」という化合物を用いる技術。この化合物は、ハロゲン原子1個分の凹みを持ち、凹みの縁が相対的に負に、凹みの内部が相対的に正に帯電する特異的な電荷分布を示す。
この凹みの中に臭素分子を挿入したところ、臭素分子は凹みの内部に安定化され、臭素分子が分極されることを見出した。2個の原子から成る臭素分子のうち、凹みの内部にある臭素原子は負に、凹みの外側にある臭素原子は正に分極した。
分極した臭素分子はペンタン、ブタン、およびプロパンといったアルカンを臭素化し、通常の臭素分子による反応とは異なる生成物の選択制を示すことが明らかになったという。
これらの知見は将来、小分子の分極化材料や高機能性触媒の設計に活用されることが期待されるとしている。