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ネオジム磁石の性能を上回る永久磁石を試作―サマリウム鉄コバルト化合物を用いて実現:物質・材料研究機構ほか

(2020年6月10日発表)

 (国)物質・材料研究機構と東北学院大学の共同研究グループは6月10日、レアアースの含有量が少ないサマリウム鉄コバルト化合物を用い、産業用機器に広く使われているネオジム磁石よりも性能が上回る永久磁石を試作することに成功したと発表した。新たな磁石の実用化開発に結び付くことが期待されるという。

 近年高性能な永久磁石が各種の電子機器をはじめ家電製品、医療機器、自動車、風力発電機など広範に利用され、需要は急速に拡大している。

 現在使われているネオジム磁石はネオジムだけではなくジスプロシウムといったレアアース(希土類元素)を使っているため、資源確保やコスト面でリスクを抱えており、レアアース使用率の少ない磁石の開発が求められてきた。

 レアアース比率の低いサマリウム鉄化合物はその候補物質の一つで、物質・材料研究機構は2017年に、鉄の一部をコバルトに置き換えたサマリウム鉄コバルト化合物が、磁気物性値である磁化・結晶磁気異方性・キュリー温度でネオジム磁石を凌ぐことを確認した。

 しかし、この物質はもう一つ重要な「保磁力」が低く、実用になっていない。

 研究グループは今回、高性能なネオジム磁石が高い保磁力を持っている要因を参考に、サマリウム鉄コバルト化合物において、それと同じような微細組織の形成を試みた。

 具体的には、サマリウム鉄コバルト薄膜にホウ素(B)を添加して結晶方位を揃えた膜を成長させた。すると、サマリウム鉄コバルトのナノ結晶が3nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)程度の厚さのアモルファス相で覆われたような粒子状の組織が形成された。電子顕微鏡による観察の結果、この膜の微細構造は、柱状のナノ結晶がすべて同じ向きに配向し、各結晶が薄いアモルファス相で囲まれている異方性複相組織であることが分かった。

 保磁力を計測したところ、ホウ素添加前に0.1テスラしかなかった保磁力は1.2テスラというネオジム磁石を凌ぐ値を示した。

 これはサマリウム鉄コバルト化合物の異方性構造で高保磁力が得られることが実証されたもので、サマリウム鉄コバルト化合物がネオジム磁石を超える新規磁石になりえることが実験的に示されたとしている。

 実用化にはこの特性をバルク材料で達成する必要があることから、今後はバルクでの実現を目標に研究を進めるという。