免疫分子が胎児の脳グリア細胞に異常起こさせる―自閉スペクトラム症の発症機構の一端明らかに:筑波大学
(2020年6月19日発表)
筑波大学の研究チームは6月19日、自閉スペクトラム症の発症に深く関わっているインターロイキン17Aという免疫系のたんぱく質をマウス胎児の脳室に投与したところ、大脳皮質のグリア細胞が異常な性質を示すことを発見したと発表した。
これは、自閉症の原因となる大脳皮質構造の異常を、免疫分子が引き起こすことを示すもので、今回の研究でそのメカニズムの一端が明らかになったとしている。
自閉スペクトラム症(ASD)は、コミュニケーションの障害と常同的行動を特徴とする障害で、この障害を持つ人は人口の1%以上とされる。
ASDの発症は多くの遺伝的・環境的要因が複雑に関係して起こるとされるが、原因の一つに、母体の免疫活性化が挙げられている。母体が細菌やウイルスに感染すると免疫システムが活性化する。それによって誘導、産生される免疫分子が胎盤を通過し、胎児の脳がそれに曝されてASD病態が生じると考えられている。
近年、ウイルス感染時に免疫系のヘルパーT細胞が産生するインターロイキン17A(IL-17A)がASD発症の責任分子であることが示唆されていたが、IL-17Aが胎児の脳内でどのように作用しASD病態につながるのかは十分に分かっていなかった。
研究チームは、IL-17Aをマウス脳室内に直接投与し、グリア細胞の一種であるミクログリアへの影響を調査した。その結果、過剰なIL-17Aに曝された発生中の脳のミクログリアは、通常よりも活性化した状態になっていて、脳室側に寄って分布していた。さらに将来大脳皮質になる場所の脳室壁の正中線付近に偏った状態になっていた。
このことから、活性型ミクログリアにより神経前駆細胞が過剰に貪食され、ASDにみられる大脳皮質形態形成異常が引き起こされる可能性が示唆されたという。
ミクログリアは、発生中の脳で神経幹細胞の数を調節する役割を果たす。今回の研究によって、IL-17AがASDの原因となる大脳皮質構造の異常を引き起こすメカニズムの一端が明らかになったことから、将来、ミクログリアを標的としたASD治療薬の開発や、IL-17A抗体など既存薬物のASD予防・治療への応用が期待されるとしている。