ドーパミンニューロンが意思決定を支える脳の機能を発見―薬物依存症や強迫性障害の治療法の探索へ:筑波大学
(2020年7月2日発表)
筑波大学大学院生命システム医学専攻4年の惲夢曦さんと、医学医療系の松本正幸教授らの研究グループは7月2日、神経細胞のドーパミンニューロンが、合理的な意思決定を支える脳の重要な神経基盤であることを見つけた、と発表した。
朝起きて顔を洗い、食事をし、勉強やスポーツなどと取り組む日常行動には、意識するしないにかかわらず必ず何らかの動機が背景にあって、選択肢の価値に基づいて意思決定をするとみられている。
そのような行動の動機付けには、快楽物質であるドーパミンニューロンが関連していることが知られている。ところが大麻やシンナー中毒などの薬物依存症者や強迫性障害者は、通常とは違って合理的な意思決定が難しかった。
強迫性障害とは、意思に反して不合理な考えやイメージが頭に浮かび、それを振り払おうとして同じ行動を繰り返してしまうような特別な症状をいう。
これらの原因の一つが、中脳で生産されるドーパミンニューロンの異常と考えられている。ニューロン異常がなぜ合理的な意思決定を邪魔するのかは不明だった。
研究グループは、ひとに近いマカク属のサルを使って観察し、サルが選択肢の価値に基づいて意思決定を行う際のドーパミンニューロンの活動を記録することに成功した。
実験室の中で、サルをモニターに向かって座らせ、モニターに表示された課題を実行している間の神経活動の変化を記録した。
6種類の図形を使って、それぞれの図形に応じてサルが好む液体飲料の報酬(価値)が与えられるようにした。6つの図形の中から2つの図形をランダムに、前後に表示した。最初に表示した図形を第一選択肢、次に表示した図形を第二選択肢とした。
サルは第一選択肢が表示されている間に、この図形に関連した報酬の価値に応じて選択するかどうかをボタン操作で決める。最後に第一選択肢を選ぶと、それに関した報酬が得られる。また、第一選択肢を選ばない場合には、第二選択肢に関した報酬が得られる。
第一選択肢の表示期間中に意思決定を行なっていると見られるため、この間のドーパミンニューロンの活動を解析すれば、ニューロンが意思決定に果たす役割を明らかにできる。
その結果、選択肢が表示され、サルが選ぶかどうか決めようとしているとき、ドーパミンニューロンは選択肢の価値が高い時ほど強く活動した。またサルが選択肢を選ぶ時だけ活動を上昇させるドーパミンや、選択肢の価値と猿の選択行動の両方を反映した活動を示すドーパミンなども多く見つかった。
ここでの重要な発見は、ドーパミンニューロンは選択肢が表示された直後は選択肢の価値を反映して活動していたが、サルが選択肢を選ぶかどうかを決めようとしている間に、選択行動を反映した活動に徐々に変化することが観察された。
また、これまで意思決定の中枢として注目されてきた前頭葉の眼窩前頭皮質からも神経活動を記録したが、ドーパミンニューロンの方がより早く価値から選択への変化が生じることが分かった。
このことから意思決定のメカニズは、霊長類で最も発達したといわれる高次中枢の前頭葉ではなく、進化的に保存された中脳のドーパミンニューロンであることが明らかになった。
今後、薬物依存症や強迫性障害疾患の治療法につなげたいとしている。