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汲んだ水から魚を数える―環境DNA分析で個体数を推定:国立環境研究所ほか

(2020年7月3日発表)

 (国)国立環境研究所と東北大学など5大学の共同研究チームは73日、海や湖の水に含まれるDNAを分析して魚など特定の生物の個体数を推定する手法を開発したと発表した。魚などを捕獲して個体数を数えなくても、水に含まれるDNAを分析するだけで海や湖に生息する生物の数が推定できるため、海や湖などの生態系を定量的にモニタリングする技術の実現につながると期待している。

 研究チームには環境研と東北大のほか、神戸大学、京都大学、島根大学、北海道大学の研究者らが参加した。

 自然環境中の水や土、空気などには、動物や植物の体から離れた細胞や組織の断片が含まれている。これらのDNA(環境DNA)を抽出・分析して、生物の生息状況を把握しようという手法が注目されている。ただ、これらのDNAは水に流されたり分解されたりするため、DNA分析だけで生物の個体数まで推定するのは困難だった。

 そこで研究チームは、①生物からのDNAの放出、②水中でのDNAの移動、③DNAの分解に注目、環境中に放出されたDNAの変動を数式で再現する「トレーサーモデル」によって特定生物の個体数を推定する手法を開発した。海洋力学シミュレーションなどで得られる水の流れ分布の情報と、生物の水槽飼育実験などで得られるDNAの放出率や分解率を組み合わせ、環境DNAの分布から生物の個体数分布を求める。

 モデルの有効性を確認するため、京都府北部の舞鶴湾でマアジを対象に個体数の推定を試みた。湾内100地点で水深5mと海底から1m上の海水を採取、環境DNA濃度を測定して個体数を推定し、従来の魚群探知機による推定値と比較した。その結果 、新手法で推定した個体数は音響計測に比べて約42%大きく精度は劣ったものの、海中でのマアジの密度分布の大まかな傾向は一致した。

 この結果から、研究チームは「環境DNA分析を用いて海洋環境に生息する生物の個体数を推定できることが初めて実証された」として、今後、環境DNA分析による水域生態系の定量モニタリング技術の研究がより加速すると期待している。