大強度陽子ビームの形状制御技術を開発―中性子源施設のターゲット容器の損傷を軽減:日本原子力研究開発機構J-PARCセンター/高エネルギー加速器研究機構
(2020年7月22日発表)
(国)日本原子力研究開発機構J-PARCセンターと、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の共同研究グループは7月22日、J-PARCにおける大強度陽子ビームの形状をコントロールできる陽子ビーム整形技術を開発したと発表した。このビーム整形によりビームの電流密度を下げられるため、中性子源施設におけるターゲット収納容器の損傷を抑えることが可能になり、施設の安全運転の向上が図れたという。
大強度陽子加速器施設J-PARCの中性子源施設は、陽子加速器で30億電子ボルト(3GeV)に加速した陽子ビームをターゲットの水銀に当てて中性子を発生させる。この水銀ターゲットを納めているのは鉄鋼製の容器で、大強度の陽子ビームに晒(さら)されるため損傷を受ける。
そこで、1年に1度容器を交換しているが、安定した状態で運転するために、また、ビーム強度を高めるために、損傷をできるだけ少なくすることが望まれていた。
損傷はビームの電流密度を抑えることで低減でき、八極電磁石を用いるとビームを平坦な形状に整形して電流密度を下げられることは知られていた。しかし、ビーム整形のための調整が複雑と考えられていたため、この手法はこれまで実用化されていなかった。
研究グループは今回、このビーム整形法を詳細に解析し、あらゆる条件において、ビーム形状はたった2つのパラメータで表せることを見出した。また、ビームロスを抑えた状態で平坦な形状にビームを整形して電流密度を下げられる最適な条件を明らかにした。
これを踏まえ、中性子源施設に実際に八極電磁石を設置し、最適条件でビームを調整した結果、ビームロスを発生させずに予測通りにビームが整形できることを確認した。このビーム整形により、水銀ターゲット上の電流密度を従来の値から約30%低下できたという。
開発した手法は将来の大強度加速器施設の安定したビーム運転にも貢献することが期待されるとしている。