スピンの短距離秩序化を世界最高温度で発見―空間反転対称性の破れとの関連性が浮上:日本原子力研究開発機構/理化学研究所ほか
(2020年7月21日発表)
合成に成功した新物質Mn3RhSiの多結晶体の写真。
(提供:日本原子力研究開発機構)
(国)日本原子力研究開発機構と(国)理化学研究所、芝浦工業大学、(一財)総合科学研究機構、の共同研究グループは7月21日、空間反転対称性のない「マンガン3-ロジウム-シリコン(Mn3RhSi)という金属磁性体を世界で初めて合成し、これを中性子とミュオンで観測した結果、通常の金属では見られない「短距離秩序」と呼ばれる伝導電子スピンの秩序状態を世界最高温度で発見した、と発表した。
この新たな金属状態の発見により、これまで未発見だった特異な新規現象が見つかる可能性が期待されるという。
磁性体において、常磁性では電子のスピンの方向はバラバラな無秩序状態だが、低温で相転移して反強磁性が現れると、スピンが反平行(互いに逆向き)に一様にそろった「長距離秩序」と呼ばれる状態になる。
ところが、一部の金属磁性体では相転移に伴い、常磁性の相内に部分的に「秩序」状態が生じる。
これが「短距離秩序」と呼ばれているもので、これまでに、結晶構造に空間反転対称性がない珪化マンガン(MnSi)などで見つかっているが、この状態が珪化マンガンで確認されたのは室温付近までで、高温では確認されていなかった。また、「短距離秩序」の起源は長年の謎として残されてきた。
研究グループは「短距離秩序」の起源には空間反転対称性の破れが関わっていると考え、空間反転対称性がないMn3RhSiという新物質を合成、中性子散乱法やミュオンスピン緩和法などの観測手法を用いて短距離秩序状態を探った。
その結果、Mn3RhSiにおいては、720K(447℃)という高温で伝導電子スピンの一部が短距離秩序化し、相分離していることを見出した。これにより、Mn3RhSiでは短距離秩序が常磁性の無秩序状態と相分離し、長距離秩序の転移温度よりもはるかに高い温度まで維持されていることが分かった。
また、今回の研究により、金属磁性体ではこのような秩序状態が空間反転対称性の破れと関連して普遍的に存在する可能性が浮上したという。
今後この研究を発展させれば、伝導電子スピンの短距離秩序の理解が期待されるとともに、この金属状態での新現象の発見も期待されるとしている。