高純度シリコンに新製法―収率15%以上向上も:物質・材料研究機構ほか
(2020年8月7日発表)
(国)物質・材料研究機構と筑波大学は8月7日、太陽電池やコンピューター向けに急速に需要が高まる半導体用高純度シリコンの収率を大幅に改善する新しい製造技術を開発したと発表した。従来技術では高純度シリコンの収率は最大で25%だったが、新技術ではこの限界を突破、従来の収率を15%以上向上させられるという。高純度シリコンの生成プロセス改善や低コスト化が期待できるという。
半導体用の高純度シリコンの製法として知られる現在のシーメンス法では、大気圧、1,200℃の高温環境下で三塩化ケイ素を水素で還元して高純度シリコンを得ている。ただ、この条件下では三塩化ケイ素の分解反応も同時に起きて四塩化ケイ素が発生し、高純度シリコンの収率は25%にとどまっていた。
これに対し研究チームは、不安定な状態にある水素原子「水素ラジカル」を用いて還元すれば理論的には不純物の四塩化ケイ素からもシリコンが得られることに注目、不安定な水素ラジカルを利用する高純度シリコン生成装置の開発を試みた。白熱電球にも使われているタングステン熱フィラメントを用いて大気圧以上の水素ラジカルを発生させ、気圧差を利用して別の反応炉に送り込む装置を開発した。
新装置を用いた実験の結果、水素ラジカルは高い反応性を持っているにもかかわらず、数10㎝離れ大気圧下にある反応炉に圧力差によって水素ラジカルをそのまま送り込めることが確認できた。さらに、この装置を利用することで、シーメンス法で問題となっていた副生物の四塩化ケイ素からも、より低温の大気圧下の還元反応でシリコンが得られることが確認できた。従来は不純物となっていた四塩化ケイ素からも高純度シリコンが得られるため、従来のシーメンス法の収率を現時点で15%以上向上させられる見通しという。
高純度シリコンは重要な戦略物質とされているが、特に世界で急速に普及する太陽電池向けには2040年に1億t以上が必要とされている。そのため、従来製法であるシーメンス法の収率改善が大きな課題となっていた。