超伝導のナゾ解明に新指針―量子コンピューター実現に貢献も:筑波大学
(2020年8月21日発表)
筑波大学は8月21日、超伝導体が磁場中で電気抵抗を持つ通常の金属(常伝導体)に変化する際に電気抵抗によって生じるはずの熱が発生せずに超伝導電流が消える理由を理論的に解明したと発表した。従来の超伝導の標準理論「BCS理論」ではナゾとされていた現象が理論的に説明できたことで、既存の理論を改良するための指針になるとみている。高温超伝導体のメカニズムの解明や超伝導体を利用する量子コンピューターの実現にも貢献すると期待している。
磁場中におかれた超伝導体は、磁場をその内部から排除する性質(マイスナー効果)を持つ。このとき超伝導体表面には電気抵抗ゼロの超伝導電流が流れるが、超伝導体が通常の金属に変わる際には、その電気抵抗による熱が生じることなく超伝導電流が消えることが実験結果から分かっている。ただ、その理由は未解明だった。
そこで筑波大計算科学研究センターの小泉裕康准教授は、超伝導電流の持つエネルギーと磁場の持つエネルギーが、超伝導状態から常伝導状態へ変わる際にどのように変化するかを理論的に考察。その結果、超伝導電流が幾何学で使われる「ベリー接続」と呼ばれる数式によって生じる環状に回り続けるループ電流の集まりと考えると、熱を生じることなく超伝導電流が消えるという現象が理解しやすいことが分かった。
ループ電流については、銅酸化物系の高温超伝導体でその存在を示唆する実験データがあり、量子コンピューターの量子ビットへの使用が可能であるとする理論的な予言もある。そのため、小泉准教授は「本研究で提唱した新理論が予言するループ電流を確認することが必要」と話し、将来的に標準理論の超伝導電流生成機構に根本的な変更が必要になるとみている。