高耐久性の鋳鉄が強化されるメカニズムを解明―その場中性子回折実験により構成組織を観測・解析:原子力研究開発機構ほか
(2020年8月25日発表)
(国)原子力研究開発機構、J-PARCセンターと京都大学の研究グループは8月25日、鋳鉄(ちゅうてつ)が「繰り返し引張圧縮変形」により強度が増加するメカニズムを大強度中性子ビームを用いて解明したと発表した。熱処理手法や材料設計の高度化への成果のフィードバックが期待されるという。
鋳鉄は鋳物製品に用いられている鉄で、炭素含有量が高く、組織内で炭素は黒煙を形成する。マグネシウムなどを加えてこの黒煙を球状化させたものを球状黒鉛鋳鉄といい、球状黒鉛鋳鉄は過酷な環境において圧力や外力に対する耐久性が極めて高く、自動車のディスクブレーキや建設機械の油圧機器のケースなどに用いられている。
球状黒鉛鋳鉄は、繰り返し引張圧縮変形させると強度が増加することが知られているが、組織の変化を高い分解能で測定することが困難などの理由で、そのメカニズムはこれまで謎だった。
研究グループは今回、球状黒鉛鋳鉄を繰り返し引張圧縮変形させながら「その場中性子回折実験」を行い、球状黒鉛鋳鉄の構成相それぞれの外力に対する応答を観測した。球状黒鉛鋳鉄は、体心立方格子構造の「フェライト」、薄い板状のフェライトとセメンタイトとが交互に並んだ層状組織の「パーライト」、それと「球状黒鉛」の3つの構成相から成る。
観測の結果、引張圧縮のサイクル数の増加に伴い、球状黒鉛鋳鉄の構成相の一つである「フェライト」に結晶欠陥(転位)が蓄積されることで、分担する応力が大きくなり、それが球状黒鉛鋳鉄全体の強度の増加に大きく寄与していることが明らかになった。
今回の観測により、過大な外力に対する鋳鉄の特性について基本的理解が進んだことから、安全性能や寿命の向上につながる鋳鉄の材料設計に知見のフィードバックが可能となり、使用環境に適した材料開発への貢献が期待されるとしている。